山本明
Date: 2004年夏
この冊子は、一般相対性理論とはどういうものか全体像を知りたいという方のために用意しました。 もしくは、これから一般相対性理論を勉強しようと思っているのだけど、教科書だけではよく分からないという方も想定しています。 まずは第一章「1. 一般相対性理論の概要」をお読みください。
一般相対性理論を必要としない方には、第一章だけで十分でしょう。 これから勉強しようという方は、続く章も役立つかもしれません。 もっと続く章を書き足そうかと思いつつ、時間ばかりが過ぎております…
以下は、このページ内へのリンクです。
題名の枕詞に「教科書のガイド」と書きましたとおり、この冊子の目的は、教科書を読むときの道案内役となることです。
これまで私は勉強する分野の全体像があらかじめ先にわかっていたら、数学の準備にも身が入るのになぁ…と思っていました。
そこで同じことを考えている人向けに、簡単な説明書きを用意してみることにしました。
第一章は「一般相対性理論の概要」と題して、一般相対性理論の流れ・ストーリーを大まかにですが、一通り日本語で書きました。数式を一切使用していませんので、ここは誰にでも読めるでしょう。 一般相対性理論に興味を持ったけれど、物理学を専攻していない方、専攻しているけど相対論とは無関係の分野(大抵の分野が当てはまるでしょう)に進まれた方々を、読者に想定して書きました。 一般相対性理論ではどういう考え方で、何をしたいのかを感じ取ってもらえれば嬉しく思います。
また、一般相対性理論をこれから学ぼうという方にも、第一章は役立つかなと思います。 この理論が何を目指しているのか、なんのためにどんな道具(数学の知識)が必要なのか、その道具をどんな風に使うつもりなのか…といったことをあらかじめ知っておけば、勉強するときに道に迷う危険性が減るでしょう。そんな目的で一読をお勧めします。
日本語でも嘘は書かない・正確なことを書くように可能な限り努力しましたが、やはり数式を廃している以上、厳密さは劣ります。
読んでいる途中、ここの定義はどういうこと??などと気になっても、まあ常識的な範囲で適当な意味合いを予想しておいてください。
本来の教科書には間違いなく、厳密な書き方がされているでしょう。
第二章は、 これから教科書を読む人のために、どんな数学の準備が必要かを改めて書きました。本当はそれぞれの数学概念についてコメントとともに紹介する…計画で途中まで書いてたんですが、完成までの道のりが険しく、現在保留にしました。
そのため、この章の存在価値には筆者もやや疑問を感じています。
なお、今さら言うのもなんですが、私は一般相対性理論をちゃんと理解していません。あまり詳しくないんです。 間違いはないように努力しましたが、記述にもし間違っている箇所があったら、どうぞ優しくご指導ください。
よく分かっていないからこそ書ける内容もあるかなと思って、このようにWEB上で公開しておくことにしました。 自分の理解不足を見せびらかすようで、かなり恥ずかしいものがあります。 もし将来、この文章を公開している恥ずかしさに耐えられなくなったら、予告なしに引っ込めることにしますので、ご了承ください。
まず物理学は何をするものなのかをはっきりさせておきましょう。物理というのは
物体の動きを予測するとはどういうことかというと…それを考えるために、ちょっとグラフを描いてみましょう。横軸には位置を取り、縦軸に時間を取ります。それぞれの時刻における物体の位置に、印を付けていくわけです。その印はどんなものになるかというと、つなげていったらまず確実に1本の線になるはずです。物体が途中で分裂したり、ワープしたりしない限りは。そういう線のことを「世界線」と呼んでいます。
物体の動きを予測するというのは、その物体の位置が時間と共にどう変化するかを求める…つまり「世界線を決定する」ということです。物理の法則は(ひとまず)その世界線の性質を規定するものだと思ってください。(ひとまず、と書いたのは量子化1を考えると、その辺が微妙な問題2になってくるからです)
世界線がわかれば、物体がそれぞれの時刻で、どの位置にあるかわかる。
「世界線を決める」=「物体の動きを予測する」
それじゃあ、ニュートン力学は、どんな風に世界線の性質を決めているかというと「力が働いていない物体の世界線は、直線になる」という性質を規定しています。静止している(=位置が変化しない)物体は時間軸と平行な直線になり、等速で運動している物体に対しては傾きが一定の直線になるはずです。
自由落下している物体の世界線はというと、これは曲線になりますね。正確には放物線になります。(曲線の形は、落下している物体の質量には依存しないってのは、面白いことかもしれません)
さて、ここで少し想像力を働かせてみましょう。
地面などなく、どこまでも自由落下していける場所を考えてみます。そして、そこで自由落下をしてみましょう。そうしたとき、自由落下をしている人物は、自分が自由落下をしていると気が付くでしょうか?
これはジェットコースターなどで、落下を始める瞬間にフッと無重力状態を感じるのと同じ状況です。
ニュートン力学でも慣性力というのがありましたね。つまり自由落下している人にとっては、重力と慣性力が釣り合って、力をまるで感じない状態になるということです。つまり「自分が落下しているとは思わない」わけです。(後に厳密には、重力と慣性力が完全に打ち消しあうことはないとわかる3のですが、そういう議論は置いておいて)これを「等価原理」と呼びます。
この「等価原理」が、一般相対性理論の大事な出発地点のひとつ。
そしてもう一つ大事な出発地点となるのが「相対性原理」です。これは「どんな観測者から見ても、物理法則は同じ形で書けるはずだ!」という期待です。
これら「等価原理」(=自由落下している人は、重力に気付かない)と「相対性原理」(=誰から見ても物理法則は同じ形になる)を合わせると、
自由落下している人は重力を感じない(=等価原理)
力が働いていないなら、静止しているか等速度で運動している(=ニュートン力学)
その世界線は、直線になる
…自由落下している人にも、同じ法則が成立するはず(=相対性原理)
自由落下している人にとって、自分の世界線は“直線”になる!?
では、そんな風に「傍から見たら曲線になっている世界線を、本人から見たら直線に見える」というそんな都合の良いことを数学で書き表すことができるのか…ということを検討してみる4と、なかなか良い物が見つかりました。それが曲がった時空という考え方。
(そんなわけで、一般相対性理論を勉強すると、もれなく曲がった空間の幾何学5の勉強が付いてきます。なんのためにそんな勉強をしているのか、わからなくならないようにしましょう。等価原理と相対性原理を考え合わせた理論6を表現するのに使えそうだからなんです)
曲がった時空だとなにがどう良いのかを軽く説明しますと、こんな感じです。
地球儀を思い浮かべてください。地球儀上の位置を示すために、緯度と経度を考えましょう。緯度の線を真っ直ぐな横軸、経度の線を真っ直ぐな縦軸にして、地球儀を平面に書き起こしてみます。これはメルカトル図法とかいう地図の書き方です。
地球儀のどこか好きな2点を選んでみてください。好きな2点といいましたが、赤道上にはない2点を選んでください。そして「その2点間を“直線で”結んでみましょう!」
・・・・・。
地球儀上で「直線」と言われても、よくわからないですよね。そこで“直線”という言葉を止めにします。どうするかというと、「その2点間を“道のりが最短になるような線で”結んで」みてください。これならできますね。(ちなみに、平面上での直線ってのは、2点間を最短距離で結ぶ線だと考えることもできますね)。さて、そのように2点間の道のりを最短にする線のことを、数学では「測地線」と呼んでいます7。
地球儀上の2点を結ぶ測地線を考えられたら、それをメルカトル図法の地図に書き入れてみましょう。どうなるでしょうか?
赤道上の2点を結ぶ測地線ならば、メルカトル図法でも「直線」になります。経度が同じ2点を結んだ場合も、同じくメルカトル図法で「直線」になるはずです。だけど、それ以外の点同士を結ぶ測地線は、メルカトル図法では「曲線になっている」はずです。つまり「地球上の2点を直線的に(道のりが最短になるように)移動すると、本人にとっては直線的に移動しているのに、他の人(メルカトル図法の地図で眺めている人)から見たら曲線を描いているように見える」ということです。
こういった話を、「等価原理」と「相対性原理」を合わせた議論に、使えるかもしれない!と期待します。自由落下している人にとっては「直線的に移動」していて、だけど別の人から見たら「曲がった線状に進んでいる」…行けそうな気がしません?
そこで、一般相対性理論では、ニュートン力学の世界線に対する規定:
「力が働いていなければ、世界線は直線になる」(ニュートン力学)
という部分を、修正します。どうするかというと
(修正!)
「力が働いていなければ、世界線は測地線になる」(一般相対性理論)
そして世界線を描くためのグラフを ―― 横軸に位置、縦軸に時間を採ったグラフ用紙を ―― 用意したときに、そのグラフ用紙自体はグニャグニャに曲がっていると考えるわけです。グラフ用紙に激しい起伏があるような状態をイメージしてください。
重力だけを受けて運動している人にとっては、(自分は重力を受けていると気付かない→力を受けていないのだから)常に世界線は測地線になる。だけど他の人の基準(座標系)で眺めてみると、その測地線は直線にはならずに曲がっている…というストーリーです。
ある人にとっての基準(座標系)と書きましたが、それはその人の位置における接平面を考えて、その平面をその人が観測に使う座標系とみなす…ということをします。接平面というのは、考えているその一点で曲面と接している(法線ベクトルが平行になる)平らな面のこと。ちなみに、このそれぞれの人にとっての座標系は、それぞれ特殊相対性理論の要請を満足する(ローレンツ対称性がある)座標系であるとします。
測地線の形というのは、その空間(グラフ用紙)がどれくらい曲がっているかに応じて、決まってきます。その曲がり具合を決める手段を、一般相対性理論では与えようと考えます。空間の曲がり具合に関する方程式を立てようと試みるわけです。
どんな空間の曲がり具合でも良いかというと、そうもいかない。単純な条件を設けます。それは「重力が弱いとき(空間の起伏が少ないとき)には、ニュートン力学を再現するように」ということ。
こういう条件を満たしつつ、空間の曲がり具合を示す方程式を立てようと試みると、答えは複数ありうるそうです。まあ、どれが正しいのかはよくわからないので、じゃあ一番「単純な形」をしているものを選んでおきましょう。…ってな流れで、出てくるのが「アインシュタイン方程式」です。
アインシュタイン方程式によって、それぞれの位置での空間の曲がり具合が決まります。それがわかったら、その曲がった空間上での測地線を描いて、物体はその測地線を世界線として運動する…と考えます。 アインシュタイン方程式は、重い物体が存在するとそれだけ時空が激しく曲がるという関係を表しています。
まあ大雑把な話ですが、それが一般相対性理論による重力理論です。
ちなみに「相対性原理」は別に重力理論に限らないものです。どんな観測者にとっても物理法則は同じ形で書けるだろうという主張は、大抵の分野で期待されている内容です。
最後にここでの話をまとめておきます。
物理の目的 …物体の動きが時間と共にどう変わるかを予測する。
世界線が決まれば、物体が時間が経つにつれてどう動くかわかる。
なお、世界線とは横軸に位置、縦軸に時間を描くグラフを用意して、時刻ごとの位置を繋げて書いたもの。
一般相対性理論が世界線に与えるルール:
世界線を書き入れるグラフ用紙はグニャグニャに曲がっている。
その起伏の激しいグラフ用紙に世界線を書き入れる。
力が働いていないとき、世界線は測地線になる。
ちなみにニュートン力学の場合は…
世界線を書き入れるグラフ用紙は真っ直ぐ平ら。
力が働いていないとき、世界線は直線になる。
でした。 等価原理と相対性原理がどちらも成り立つだろうと期待すると、 これではうまくいかないのでした。
以上でお話を終わります。
第一章「1. 一般相対性理論の概要」を読まれた方は、一般相対性理論ではなにをやろうとしているのか、大体つかめたでしょうか?
前章で触れたとおり、一般相対性理論では曲がった時空を基本的な考え方に利用しています。 そこで教科書を開けば、まず曲がった空間を表現する数学を勉強することになります。これを「リーマン幾何学」といいます。
大事なのは、
そして、相対性原理(どんな観測者から見ても物理法則の形は同じに見える)を実現するためには、ベクトルとかテンソルの表記法が、大変便利になります。スカラー、ベクトル、テンソルといったものは、座標を変換したときにそれを表現する数字(の組)がどのように変化するか、その性質による分類です。
座標を変換しても法則の形が変わらないというのが、相対性原理の要請です。そこでテンソルの分野では、
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口座名義 | 山本明 |
口座名義(読み) | ヤマモトアキラ |
口座種別 | 普通 |
口座番号 | 0444677 |
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Computer Based Learning Unit, University of Leeds,
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Ross Moore,
Mathematics Department, Macquarie University, Sydney.
を日本語化したもの( 2002-2-1 (1.70) JA patch-1.9 版)
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Niigata Inst.Tech.
を用いて生成されました。
コマンド行は以下の通りでした。:
latex2html index.
翻訳は 山本明 によって 平成18年1月28日 に実行されました。