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小話「今日も私はエラかった」

 今日は1日中、数学遊びをしていた。
 意味があるのかないのかわからない等式を3つ証明したあたりで、ひどく疲れを感じた。普段使わないほどに頭を使っていたらしい。(普段、頭を使いなさ過ぎているのかも…)
 その後もいろいろと式をいじるのだが、なかなか期待通りにはならない。
「疲れた〜!」
と呟いてトイレに向かった。
 その後もさらに続きの計算を試みるが、やはり期待通りにはなりそうもない。
 ひょっとすると、さらにもっと頑張ってごりごり計算すればうまくいくのかもしれないが、いいかげん頭から煙が出てきそうだ。
「今日は打ち止め!もう帰ろう。あー、疲れた!」
 荷物をまとめて、駅へ向かう。終電間近なので小走り。
 これくらい走れば間に合うな、という頃合いで徒歩に切り替え、
「ふー、疲れた。」
 ・・・・・
 ・・・さっきから俺、「疲れた」って言ってばっかじゃん…
 そこで思い当たり、思い返してみると、式をいじっているときも手が詰まるたびに「疲れるー」とか「疲れたー」とか言っていたような気がする。
 どうやら私は「疲れた」が口癖になっていたようだ。
 実際に身体がそこまで疲れていなくても「疲れた」と口にする…

 ……これって、すごくひ弱そうじゃん…

 実際にひ弱だろ、と言われたらそれまでなんだが、私自身はそこまで自分のことをひ弱だとは思っていない。――この口癖は直さなくてはならない。
 よし、これから「疲れた」を私にとって禁句にしよう!
 けど、[その言葉]を使わないならば、同じ気持ちをどう呟けばいいのだろう…
 [その言葉]でなければいいわけだから、
「あー、アレ!」
とか
「あー、かさたな!」
とかでもいいわけだが、これらはハタで聞かれたときに恥ずかしい。(聞かれないようにはするけど)
 できれば、ひ弱そうじゃなくて健康そうな呟きがいいよね。
「あー、元気、元気!」
なんていいかも。
 ……ホントかよ…
 これもやっぱり滑稽な気がするぞ…だって、本当に●●れ果てたときに「元気、元気!」はないだろう。(←諸般の事情により伏せ字を使っております)
 そこで思いついた。
 日本のある方言では[その言葉]を「えらかった」と表現するそうなのだ。以前に誰かから聞いたことがある。この方言、なぜか私の頭にはしっくりときていた。ニュアンスがなんとなく伝わってくるのである。
 ――これにしよう。
 決定。
 計算をたくさんして頭がふらふらするときにトイレに向かう、そんなときに呟くのは、
「あー、エラかったー!」
 うまくいかない計算の最中に呟くのは、
「うーん、エラいなぁ…」
 1日の終りに呟くのは、
「いやー、今日も1日エラかったー!!」

 なんか、偉くなったようで気分がいいや。

(2001.8.15)

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