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小話・私の下宿は

 私の下宿は古いです。
 廊下を歩けばきしむ音がします。
 外の声が筒抜けなので、きっと私が部屋で声を出せば、それは外に筒抜けでしょう。
 冬はすきま風が厳しいです。朝起きて、窓を開けても気温が変化しないくらい、室温は下がります。
 日当たり良好!…なのは良いのですが、夏場はひからびそうなくらいです。
 契約書によると「築30年」らしいのですが、これはきっと「昭和30年に建てられた」に違いありません。

 だけど私の下宿は快適です。
 トイレは共同だけど、ガス・水道は個人で使えます。
 風呂なしだけど、銭湯の広いお風呂はかえって快適です。(風呂掃除をしなくていいのも楽ちんです)
 雨漏りはないし、和室6畳は私にとって十分な広さです。
 立地条件はいいし、東京では格安の物件です。
 要するに、私の身の丈にあった生活ができる場所なんです。

 そんななか、今日、大家さんと話をしていたら、同じ下宿にあの江崎玲於奈さんが住んでいたということを聞きました。
 あのエザキダイオードを開発し、1973年にノーベル物理学賞を受賞した、あの江崎さんです。
 なんでも大阪から東京に出てきて、すぐに住んでいたそうです。ここから東京通信工業(現ソニー)に通っていたそうです。
 ここに住んでいて、後にノーベル物理学賞を受賞したなんて、とっても縁起がいいと思いませんか?
 これは素敵です。

 だけど、「昭和30年に建てられた」説の信憑性が、また一つ高くなりました。

参考:                       
江崎さんが東京通信工業からIBMに移った年…1960年

 

(2003.4.3)


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