小話 「明太子ジュース」
果汁100%りんごジュース――最近のお気に入り。
最近と言っても、ここ10年来は変わってないから息は長い。でもってこだわりは「濃縮果汁は嫌」ということ。
濃縮果汁の登場のおかげで、果汁100%のジュースでも日もちするようになったし、安くもなった。それはありがたかったのだが、やはり味が違う。せっかく贅沢するならば、ちゃんとストレート果汁のおいしいものを飲みたいものだ。
そういうわけで、贅沢品として時々果汁100%のりんごジュースを買って飲んでいる。
学校の最寄りスーパーに、ストレート果汁100%にしては安いものが売られているのだ。味も悪くない。
さすがにストレート果汁だと日もちしなくて消費期限は長くても2週間くらい。しかし、たかだか1リットル、後生大事に飲んだとしても1週間もたない。この消費期限は大抵の場合、気にしなくても良い。
さて先週の初めごろ、件のジュースを買って飲み始めた。
やはりうまい。
ジュースといえば、これに限る。
そんなことを思いながら週末を迎えたのだが、先週末は急きょ実家に帰る予定になった。土曜のうちにジュースを飲みきろうかと思ったけど、時間がなくて飲めなかった。まあ消費期限までは、まだ時間があるから平気でしょう。
月曜日――大学に着くと冷蔵庫からりんごジュースを出してきて、さっそく飲んだ。
コップがないので、湯飲みに入れて飲んだ。
…明太子の味がする。
断っておくが、私は“腐ったものを口にしたら吐き出す”程度の生存本能は持っている。
以前、賞味期限を過ぎていた牛乳を気づかずに飲もうと口に含んで、反射的に吐き出したこともある。その牛乳を口にしたときは、まるで牛乳の上澄みの部分を口にしたかのように味気なく、違和感と同時に「毒だ!吐き出せ!!」という本能が働いた。そして飲み込もうとしていた分も残さず吐き出した。
しかしこのりんごジュースでは、本能が告げる危険信号は出ていない。
ただ単に、明太子の味が混ざっているのだ。普通のりんごジュースの味もしている。
これは実は、コップ代わりの湯飲みに秘密がある。
先月末、祖母から博多の明太子を分けてもらって、それを先々週あたりにお弁当と一緒に持ってきていたのだ。
お弁当の明太子を食べながら、「旨いー、辛いー」(注:辛子明太子ではないが) と言って湯飲みでお茶を飲んでいたのだ。そのとき口の周りに付いていた明太子の一部が、湯飲みの口の部分にくっつき、残っていたというわけだ。
うーん…せっかくのりんごジュースの味が…
明太子は好きだし、りんごジュースは好き。
しかし両方を同時に味わうのは、ちょっと…
まあ仕方ないので、そのまま飲んだ。気がついたのなら湯飲みを洗うべきなのだろうが、これは飲んでいるうちにきれいになるだろう。
1杯を飲み終え、2杯目。
まだ明太子林檎ジュースになっている。
博多の明太子は、辛子明太子でなくてもちょっとピリッとする。
ジュースを飲んでて、ちょこっとだけそのピリッがある。
2杯目も飲みきった・・・まてよ?
ちょっとよく考えてみよう。
明太子をお弁当に持ってきたのは先々週だ。
そしてこのジュースを飲み始めたのは先週。
いつもこの湯飲みで、ジュースなりお茶なり飲んでいるけど、先週は明太子の味なんてしなかったぞ?
いやいや先週は偶然、明太子のついていないところを口にしてたんだ!…といっても説得力は弱い。
念のため、パックに残ったごく少量のジュースを毒味してみた。
湯飲みは使わずに、パックの口からそのまま飲んだ。
・・・明太子の味がする…
まあ飲んでも死にはしない程度だけど…悪くなってたので、残りは捨てることにした。
(2001.9.10)