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小話 「桃」

 私の好きな果物といえば桃。
 そんなわけで今月、“ふるさと小包”で母に白桃を送ってもらった。別に実家が桃の産地というわけではない。郵便局の“ふるさと小包”というサービスは、その月々に日本各地の名産品であらかじめ指定しておいたものを産地直送してくれるというものなのだ。
 私が栄養失調にならないように(?)、母からは時々このふるさと小包で差し入れをしてもらっている。
 年度の始めに欲しい月、欲しいものを選ばしてもらっているのだが、私が選ぶ欲しい物品はたいてい魚の干物かなにかである。弁当のおかずが欲しいのだ。
 が、この8月。
 この月には選択肢に山梨の白桃が含まれていた。
 魚の干物系の品物がない月はパス…が基本なのだが、これは見るからにおいしそう…
 一人暮らし&貧乏暮らしでは、桃なんて買うもんではない。八百屋で眺めるためのものである。
 しかし食べたい。
 結局、この月は贅沢品・桃を送ってもらった。

 待ちに待った白桃とのご対面!
 かわいいかわいい白桃が8つ。
 ここで独り占め――しても、どうせ腐らせるのオチ。
 受け取りのときに管理人さんのお世話になってるし、寮の掃除をしてくれてるおじさんおばさんには普段からお世話になっている。そんなわけで良さそうなものから順に3つ選んで、おすそ分けに行った。
 さて、残りは5つ。
 これはもう、誰に何と言われようが独り占め。誰にもあげない。
 5つをもう一度手に取って、悪くなりそうな順番を付けた。で、傷がついてるとかの早く悪くなりそうなものから順に食べることにした。
 なんでも桃は「食べる2時間くらい前に冷蔵庫に入れる」とおいしいそうである。小包みに同封の紙切れに書いてあった。
 それに従うために、食べる日の昼頃に冷蔵庫に入れて、夜、食べることにした。
 実際、予定外の大学泊まりの日があって、冷蔵庫に30時間くらい入れていたときがあったが、そのときの桃はやたらかたくなっていた。冷蔵庫の中で水分が飛んでしまったのではないかと思う。そんなことで、きっと桃は長く冷蔵庫に入れないほうがいいのだろう。
 残り2つになった。
 その二つのうち、早く悪くなりそうだったほうを手に取ると、はやくも水分が抜け始めているではないか。
 桃は手に取るだけでもそこから悪くなるというから、初日に食べる順番を決めてからは触らないようにしていた。
 まったく残念なことに、最後から2番目の桃の保存状態はそんなに良くはなかった。
 そして最後の一個。
 手に取った――ら、驚愕。
 すでに悪くなっている。箱に入れてる状態じゃ見えない側に2ヶ所、こげ茶のあざがあった…
 そもそもおすそ分けの3つを除くと、どれもさっさと食べなくちゃ傷みやすそうな状態ではあったのだ。それを後生大事に1日1個のペースで食べてるから、こうなるのだ!
 また、人には1人1個分しか渡さなくて、自分は5つも食べようという魂胆が意地汚い。
 こうなった以上、もはや仕方がない………
 ………腹が痛くなっても食べてやる……

(2001.8.20)

蛇足。
 2ヶ所のこげ茶のあざは、初日に検分したときに触った場所のようだった。
 まったく桃というのは傷みやすい果物だ。
 見た目はかなり大変な様子だったが、皮をむいてみると、その2ヶ所以外は正常(に見えた)。
 おいしく食べて、腹痛にはなっていません。

(2001.8.21)

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