家族論

論題:イグアナの娘を読んで家族・親子について書く (1998.8.25)

 家族とは、常に思い通りになるものではない。お互いが独立した個人であることを自覚しておくべきだろう。
 作品中の母と娘は、自分の子供が愛せないという同じ状況に立つことになった。しかしその後の経過はまるで違ったものになっている。二人の間の違いは何だろうか。
 娘は、自分の子供を愛せないで苦しんでいるときに、母の死と遭遇した。そして「涙と一緒にあたしの苦しみを」流すことになる。母を愛したくて愛せなかった苦しみだけでなく、自分の子供を愛せない苦しみも一緒に流したのだ。
 母の死という現実と向き合うことで、それまでの過去を総括し、ありのままの現実を受け入れることができるようになった。
 それとは対照的に「母の涙はどこかに凝って」流れることはなかった。娘を愛せないまま妹を出産したことで、さらに現実から離れていった。思い通りの姿をした妹だけをみて、現実から目をそらした。
 母と娘の間の大きな違いは、現実を受け入れられたかどうかだ。子供の姿というのは、必ずしも思い通りにならない。それはどうしようもない現実だ。否定するのではなく、ありのままを受け入れる必要がある。
 家族というと、つい甘えがちになり何でも思い通りにしたがる。しかし、お互いが独立した個人であることを意識すべきだ。お互いを尊重しあう精神を養う必要がある。
掲載:Benesse Corporation刊行 エンカレッジ小論文 高2講座 1998年11月号
エンカレッジ小論文 高2講座 1999年11月号

<コメントもしくは蛇足>
 萩尾望都作の『イグアナの娘』を読んで、家族・親子について書きなさい。というのが、課題でした。
 この課題をやるまで私は萩尾望都さんの作品を知らなかったのですが、いいですね…この人の作品は。登場人物の心の描写がうまいと思いました。同単行本に収録されてる『カタルシス』なんか大好きです。その後、『11人いる!』&『続〜』とか『百億の昼と千億の夜(原作・光瀬龍)』などを読み、『トーマの心臓』や『ポーの一族』なども読みました。
 もともとの依頼の話に戻しますが、これは高校2年生向けの小論文講座における課題です。なるほど、活字慣れしていない高校2年生のために、あえてマンガを教材に選んだのか…と始めは少しなめてたんですが、実際にやってみると活字の文章を読んで何かを論じるよりも、ずっと大変。マンガの表現力の奥深さを実感しました。
 提出してみると、意外なことに高く評価してもらうことができ、母や小学校の恩師にも好評でした。私の“冷めた”家族論を展開したのですが…

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