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行列が3×3正方行列のとき

最後に$ A$$ 3\times 3$正方行列のときでも、同じことが言えることを見ていき ましょう。 そろそろ私も書き飽きたし、みなさんも読み飽きたころでしょうから細かい計算 ははしょっていきます。

ここでもまた 具体的な行列で考えていくことにして、

$\displaystyle A=\frac{1}{8}
\left(
\begin{array}{@{}ccc@{}}
20&6&-4 \\
4&18&4 \\
-6&-3&10 \\
\end{array}\right)
$

としていきましょう。

固有値と固有ベクトルを規定する式は $ A\vec{x}=a\vec{x} $でした。 この式を変形すると、

$\displaystyle \frac{1}{8}
\left(
\begin{array}{@{}ccc@{}}
20-8a&6&-4 \\
4&18-8a&4 \\
-6&-3&10-8a \\
\end{array}\right)
\vec{x}
=0
$

この式から、面白くもない$ \vec{x}=0$以外の解を見出すためには、

$\displaystyle \det
\left(
\begin{array}{@{}ccc@{}}
20-8a&6&-4 \\
4&18-8a&4 \\
-6&-3&10-8a \\
\end{array}\right)
=0
$

でないといけない。この条件式を解くと、 固有値として、

$\displaystyle a=1,3,2
$

という値が得られます。

それぞれの固有値に対応する固有ベクトルの式を求めましょう。 今度は3次元空間中で直線の式を求めるのだから、それぞれの固有値につき平面 を表す式が2つずつ得られることでしょう。

$ a=1$に対応する固有ベクトル:

$\displaystyle \vec{x}=\left(
\begin{array}{@{}c@{}}
x y z
\end{array}\right)
$

とすると、得られる式は、

$\displaystyle \left\{
\begin{array}{@{ }l}
6x+3y-2z=0 \\
2x+5y+2z=0 \\
\end{array}\right.
$

の2つ。もっと単純な形として、

$\displaystyle \left\{
\begin{array}{@{ }l}
x+y=0 \\
3y+2z=0 \\
\end{array}\right.
$

を採用しておきましょう。

$ a=3$に対応する固有ベクトル:

同じように計算を進めます。得られる式は、

$\displaystyle \left\{
\begin{array}{@{ }l}
-2x+3y-2z=0 \\
-6x-3y-14z=0 \\
\end{array}\right.
$

の2つ。もっと単純な形として、

$\displaystyle \left\{
\begin{array}{@{ }l}
x+2z=0 \\
3y+2z=0 \\
\end{array}\right.
$

を採用します。

$ a=2$に対応する固有ベクトル:

これも同じく計算を進めます。 得られる式は、

$\displaystyle \left\{
\begin{array}{@{ }l}
2x+3y-2z=0 \\
2x+y+2z=0 \\
\end{array}\right.
$

の2つ。もっと単純な形として、

$\displaystyle \left\{
\begin{array}{@{ }l}
x+y=0 \\
x+2z=0 \\
\end{array}\right.
$

を採用します。

固有ベクトル方向への写像として、

$\displaystyle \left(
\begin{array}{@{}c@{}}
X Y Z
\end{array}\right)
=
\lef...
...
\end{array}\right)
\left(
\begin{array}{@{}c@{}}
x y z
\end{array}\right)
$

としましょう。もちろん、これ以外 の変換行列を使っても問題ありません。 ここでは固有ベクトルの方向へ移すことが大事なのであって、それぞれの座標軸 の目盛りについてはなにも言っていません。その点が、この変換行列を自由に選 べる理由の根底にありそうです。 とにかくここでは、 上のように選びました2

この$ (X,Y,Z)$から元の$ (x,y,z)$に戻るために逆行列を求めると、

$\displaystyle \left(
\begin{array}{@{}c@{}}
x y z
\end{array}\right)
=
\fra...
...
\end{array}\right)
\left(
\begin{array}{@{}c@{}}
X Y Z
\end{array}\right)
$

が得られます。

よって、いま考えている行列$ A$

$\displaystyle A=
\frac{1}{8}
\left(
\begin{array}{@{}ccc@{}}
2&6&-2\\
-2&2&2\\...
...
\left(
\begin{array}{@{}ccc@{}}
1&0&2\\
1&1&0\\
0&3&2\\
\end{array}\right)
$

と書き表わすことができます。このように書くと、累乗計算は楽になり、

$\displaystyle A^n
=
\frac{1}{8}
\left(
\begin{array}{@{}ccc@{}}
2&6&-2\\
-2&2&...
...
\left(
\begin{array}{@{}ccc@{}}
1&0&2\\
1&1&0\\
0&3&2\\
\end{array}\right)
$

のように行うことができます。

これらは「もともと考えている座標系から 固有ベクトルの方向を軸とする座標に移り、 行列の効果を考えた後で、 元の座標系に戻る」という操作をしているのでした。

以上で$ 3\times 3$の正方行列に対する具体例もお終い。

やっていませんがもっと一般に$ n\times n$の行列、 行列に限らず一般の演算子についても、同様に考えることができると思います3


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平成17年8月29日