previous up next_inactive
この記事の元 : 2005年度 講義での配布資料

慣性モーメントのまとめ
山本明
2005.12.7

12月7日に、慣性モーメントの計算練習を行いました。その際に配ったプリントのHTML版を以下に公開します。 印刷される方はPDF版をご利用ください。


剛体の運動を求めようというとき、特に剛体の角運動量を求めようというとき、剛体の慣性モーメントは重要な役目を担います。そこで慣性モーメントをどのように計算したらよいのか、その方法を知っておくことが重要です。

どんな形の剛体の慣性モーメントでも計算できる!というのが理想ですが、せめて球・円柱・立方体くらいは確実にできるようにしておきましょう。 多重積分のやり方がポイントです。

1 慣性モーメントをなぜ考えるのか

質点がたくさん集った系での全角運動量 $ \vec{L}=\sum\vec{r}\times\vec{p}$ の時間微分を考えてみると、

$\displaystyle \frac{d}{dt}\vec{L}=[$外力のモーメントの和$\displaystyle ]
$

となる。 このように内力がまったく表れないというのは、剛体のように質点の集合体をまとめて記述しようという目的には好都合である。 そこで、剛体の全角運動量を計算しようとしてみると、剛体の回転の角速度を $ \vec{\omega}$と書いて、

$\displaystyle \vec{L}=\int dv[\rho\vec{r}\times(\vec{\omega}\times\vec{r})]
$

が成り立つ。さらに回転軸が$ z$軸に固定されているとして、角運動量ベクトルの$ z$成分のみを考えてみると、( $ \vec{\omega}$$ z$成分を$ \omega$と書く)

$\displaystyle L_z=\int dv[\rho(x^2+y^2)] \cdot\omega
$

となる。このはじめの部分を「慣性モーメント」と呼び、$ I$と書く。

$\displaystyle I=\int dv[\rho(x^2+y^2)]
$

これが慣性モーメントを計算するための出発地点となる式。(ここの$ \int{dv}$は剛体全体での積分。つまり1変数の積分ではなく多重積分である)

慣性モーメントをあらかじめ計算しておけば、角運動量は$ I\omega$と簡単に求めることができて、さらに剛体の回転に関する式は

$\displaystyle I\frac{d\omega}{dt}=N_z
$

と簡単なものになる(この式の右辺$ N_z$と書いたのは、外力のモーメントの和の$ z$成分という意味)。 この式を眺めると、回転にとっての慣性モーメントは、並進にとっての 質量に相当する役割を果たすことがわかるだろう。

2 多重積分のやり方


  1. 積分に用いる座標変数を決める。$ x,y,z$にこだわらない方がよい。
  2. それぞれの変数に対して、積分範囲を求める。
  3. 微小体積$ dv$をその座標変数で書き表わす。
  4. 被積分関数をその変数で書く。
  5. 順序よく積分する。



多重積分では球座標円柱座標を使いこなせるようになっておこう!

3 参考までに「平行軸の定理」

重心を含む直線を回転軸としたときの慣性モーメント$ I_G$が求められているとき、その軸と平行に$ h$だけ離れた軸を回転軸としたときの慣性モーメント$ I$は、

$\displaystyle I=I_G+Mh^2
$

となる。ちなみに$ M$とは剛体の全質量。つまり、重心を通る軸まわりのときに慣性モーメントが最も小さくなる(=最も回転を変化させやすい)ということ。

上の式は、 $ I=\int dv[\rho(x^2+y^2)]
$$ x,y$に対して、変形していくと証明できる。

この$ x,y$は回転軸を原点とした座標である。 ここで重心の座標を $ (x,y)=(a,b)$であるとしよう。 「回転軸が重心を含む軸から$ h$だけ離れている」という条件から $ a^2+b^2=h^2$ということはわかっている。 さらに「重心を通る軸まわりの慣性モーメントが求められている」ということは $ \int{dv}[\rho(x_G^2+y_G^2)]$の計算はすでにやっていて、それを$ I_G$と書くということ。 ここの$ x_G$とか$ y_G$ $ x_G=x-a, y_G=y-b$である。

さらに、 $ \int{dv}[\rho]$は剛体の全質量$ M$であるので……自分で計算できそうだと思えたら、ちょっと計算してみよう!

自分で計算してみて「どうもこの項が消えないなぁ…」という項があったら、そもそも重心の座標をどのように求めていたかも思い出そう。 $ \displaystyle \vec{r}_G=\int{dv}[\rho\vec{r}]$、つまり

$\displaystyle a=\int{dv}[\rho x] ,\quad
b=\int{dv}[\rho y]
$

である。このことを使うと、うまくできないだろうか??

4 参考までに「任意の回転軸での慣性モーメント」

先に挙げた

$\displaystyle \vec{L}=\int dv[\rho\vec{r}\times(\vec{\omega}\times\vec{r})]
$

の式に、 $ \displaystyle
\vec{\omega}=\left(
\begin{array}{@{}c@{}}
\omega_x  \omega_y  \omega_z
\end{array}\right)
$ $ \displaystyle
\vec{r}=\left(
\begin{array}{@{}c@{}}
x  y  z
\end{array}\right)
$ を代入してみよ。それで、任意の回転軸の場合の角速度と角運動量の関係が得られる。

ちなみにその答えは、

$\displaystyle \left\{
\begin{array}{l}
\displaystyle
L_x=\int{dv}[\rho(y^2+z^2)...
...rho(zx)\omega_x-\rho(zy)\omega_y+\rho(x^2+y^2)\omega_z] \\
\end{array}\right.
$

である。そのため、

$\displaystyle I_{xx}$ $\displaystyle =\int{dv}[\rho(y^2+z^2)]$    
$\displaystyle I_{xy}$ $\displaystyle =-\int{dv}[\rho(xy)]$    
$\displaystyle I_{xz}$ $\displaystyle =-\int{dv}[\rho(xz)]$    
  $\displaystyle \vdots$    

という書き方を導入すれば、

$\displaystyle \left(
\begin{array}{@{}c@{}}
L_x L_y L_z
\end{array}\right)
...
...left(
\begin{array}{@{}c@{}}
\omega_x \omega_y \omega_z
\end{array}\right)
$

という表記ができて、剛体の回転を表わす方程式は

$\displaystyle I\frac{d\vec{\omega}}{dt}=\vec{N}
$

のようになる。この式は$ I$が行列なので、見た目ほど単純に解けるわけではないけれど。

ちなみに対称な軸に対して回す場合。 $ z$軸で対称な物体で計算すると、 $ I_{xz}, I_{yz}$といった値は0になるので、$ z$軸まわりの角運動量は単純に $ L_x=0,L_y=0,L_z=I_{zz}\omega_z$と求めることができる。

対称な軸で回転していない場合は、たとえ$ z$軸に沿って回転させても、$ x$軸まわりや$ y$軸まわりの角運動量が現われる。



この文書について...

慣性モーメントのまとめ

この文書はLaTeX2HTML 翻訳プログラム Version 2002-2-1 (1.70)

Copyright © 1993, 1994, 1995, 1996, Nikos Drakos, Computer Based Learning Unit, University of Leeds,
Copyright © 1997, 1998, 1999, Ross Moore, Mathematics Department, Macquarie University, Sydney.

日本語化したもの( 2002-2-1 (1.70) JA patch-1.9 版)

Copyright © 1998, 1999, Kenshi Muto, Debian Project.
Copyright © 2001, 2002, 2003, 2004 Shige TAKENO, Niigata Inst.Tech.

を用いて生成されました。

コマンド行は以下の通りでした。:
latex2html index.

翻訳は 山本明 によって 平成17年12月17日 に実行されました。


previous up next_inactive
執筆者:山本明 ([物理屋さん]山本屋本舗 提供の記事) 投げ銭受け付け中!