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この記事の元 : 演習の授業風景1 問題を解くための物理の教科書 (電磁気)
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8. おまけ:鏡像法について

鏡像法というのは、導体が近くにあるときに電位と電場を求める手法のひとつです。 たまに教科書に書いてあったり、講師によっては試験問題にしたりもするでしょう からいくつかパターン問題を練習しておきましょう。

8.1 鏡像法

導体の性質を簡単に思い出してみましょう。 まず導体というのは「電荷(自由電子)が自由に動き回れる」という性質がありますね。そういうものを導体と呼んでいるわけです。

電荷が自由に動き回れるとどういうことが起きるか…それは「導体内部に電場がない」という状況に繋がります。もしも電場があったとすると、電場の影響を受けて電荷がその電場を打ち消す位置に移動してしまって、結果として電場はなくなります。

そして電場がないということは、その領域内で電位が等しいということになりますね。だって2点間の電位差は、電場をその2点の間で積分して計算してましたが、電場0ならば、電位差も0になってしまいます。(電位が0になるのではありません。電位差が0になるだけです!)

導体の性質: 電荷(電子)が自由に動き回れる。
       $ \vert\vert $
   導体内部に電場はない($ \vec{E}=0$)。
       $ \vert\vert $
   導体中、電位は等しい

このことを先に確認した上で、鏡像法の話に入っていきます。

導体が存在しているときは、その導体の影響で、電位や電場を考えるのが大変になります。 例えば無限に広い導体板の近くに点電荷を持ってきたとしましょう。 導体が存在しないときは、点電荷がどんな電場・電位をつくるかわかっています。クーロンの法則でもガウスの法則でもどちらでも求めることができます。 だけど導体が近くにあると、点電荷につられて、逆符号の電荷が導体の表面に集まってきます。 導体が存在しているときの電位や電場を考えるときは、この導体表面に現れる電荷の影響も考慮に入れて、計算しなければなりません。

まあ真面目に、導体表面にどんな電荷分布が実現されるかを考えて、ちゃんとクーロンの法則で積分して…で計算することも不可能ではありません。だけど、かなり大変です。

その点「鏡像法」という考え方を使うと、やはり特定の場合に限りますが、とても楽に電場と電位を計算することができるのです。

では具体的にどうやるか。

鏡像法のキーポイントは「存在している導体の代わりに、 導体があるときと同じ電位を
つくるように架空の電荷(鏡像電荷と呼ばれる)を空間に配置する」ということです。 どんな量の電荷をどこに配置するかが、鏡像法の大事なところ。

導体があるのと同じ電位をつくると簡単に言っていますが、これはどうやって判断できるのか。全空間中の電位が同じになってるか確認できるくらいなら、導体が存在しているときの電位がすべてわかってるってことじゃないか!と思うかもしれませんね。 実はここ「導体があるのと同じ電位をつくっているかどうか」の確認法には、手軽なものがあります。それは

導体があるのと同じ電位をつくる
$ \uparrow $
導体の境界線上が等電位になれば良い
なぜこんなことが言えるかというと、これは“電位の一意性”と呼ばれる性質を 使っています。これは「境界上で電位が同じになっている2つの状況同士では、境界以外の場所でも電位は等しくなる」という電位の特徴です。 この電位の一意性については、電位が満たすポアソン方程式を考えて…とやっていくのですが、ちゃんと説明してくととても長くなってしまいます。数学で厳密に証明された性質だよ…ってことで、今日はこの結論だけ使わせてください。 興味ある人は電磁気の教科書で調べてみてください。キーワードは「電位の一意性」。多くの教科書にちゃんと説明が載ってると思います。

さて電位の一意性によって「境界面での電位が等しい」状況になっていれば、境界以外の場所でも電位が等しくなることが保証されます。そして導体の性質「導体表面は等電位である」ことを利用しましょう。 (境界以外の場所といっても、導体がない場所に限ります)

つまり、架空の電荷を配置するときには「その架空電荷を置くことによって、もともと導体の表面があった場所の電位が等電位になるように、架空電荷を配置する」わけです。 それができたら全空間中の電位が簡単に計算できるという筋書きです。 なんといっても、何個かの点電荷がつくる電位だったら、計算は楽ちんですよね。

$\displaystyle \begin{array}{c}
\begin{array}{ccc}
\text{導体あり}&&\text{架空の...
...w
\end{array}\\
\text{ すべての領域で、電位はどちらも同じになる!!}
\end{array}$

手順をまとめておきましょう。

手順:
  1. 導体は存在しないものとする。
  2. 適当な鏡像電荷を配置する。
  3. もともとの電荷+鏡像電荷がつくる電位を計算する
  4. 導体があったはずの面が、等電位になっているか確認
    (→うまくいっていたらOK!)
  5. もし等電位になっていなかったら、別の鏡像電荷を配置して確かめてみる。
ということです。

さて、どうやってもうまい鏡像電荷の配置が見つからないときはどうしましょうか? そのときは諦めましょう。 この鏡像法が使えるかどうかは、鏡像電荷がうまく配置できるかどうかにかかっています。

なお、参考までに“導体表面に現れる総電荷量と鏡像電荷の総和が等しくなる”ことも、うまい配置の条件です。 これも鏡像電荷を探すときの目安になりそうですね。 つまり、配置する鏡像電荷の電荷をすべて足し算したものは、導体の外にある電荷の総量の符号違いになるわけです。

この鏡像法が使えるパターンというのは限られています。 本当はもっとたくさんあるのかもしれませんが、私の経験では

しか聞いたことがありません。(別の問題があったら解法と合わせてぜひ教えてください) そして一度やっておけば、どのあたりに電荷を配置すればうまくいきそうか、予想が上手になると思います。

8.2 *問題練習

それでは、実際に使ってみましょう。 どんな鏡像電荷を置いたら良いのか、いろいろ考えてみてください。 …といっても、典型的なパターンしか出題していませんけど。

問題33 (鏡像法)

$ x$-$ y$平面に無限に広い導体がある。

このとき$ x$-$ y$平面から$ \ell$だけ離れた点に$ +q$の電荷を設置したとする。

鏡像法を用いて、この電荷にかかる力$ \vec{F}$を求めたい。

(1) 鏡像法を用いるために、架空の鏡像電荷を配置させる。どこに、どれだけの電荷を配置したらよいだろうか? 思いついた場所と電荷の大きさを答えよ。

(2) (1) で考えた鏡像電荷がある場合の電位を求めよ。 また、その結果を用いて$ x$-$ y$平面の電位はどうなっているか?

(3) 鏡像法を用いて、この電荷に掛かる力$ \vec{F}$を求めよ。

**

どこに電荷を配置させましょうか?

勘の良い人ならばすぐわかってしまうかもしれません。これは、導体の表面を鏡と思って、鏡の像に相当する位置に配置するとうまくいきます。これが「鏡像電荷」と呼ばれる所以ですね。

実際に手を動かして、導体表面があった場所が等電位になっていることを確認してみてください。

それができたら、電位を微分すれば電場が求められて、電場に電荷を掛け算すれば力が求められる…と普段と同じやり方で(3)は求められます。

このような無限に拡がっている導体板の問題が、一番の基本だと思います。次からちょっと応用してみましょう。

 

* * *

問題34 (鏡像法2)

$ x<0$の領域と$ y<0$の領域が、無限に広い導体で埋めつくされている。

点P$ (a,a,0)$ ($ a>0$)に点電荷$ +q$を置いたとき、$ x$-$ y$平面上の第一象限($ x>0$かつ$ y>0$の領域)の電位$ \phi(x,y)$を求めよ。

**

ちょっと変えてみたけど、無限に広い導体とほとんど同じですね。

鏡像電荷の配置場所などは、考えてみてください。 注意として「鏡像電荷の総電荷量と、導体の表面に現れる電荷の総量が同じに なる」って条件も思い出すようにしましょう。

 

* * *

問題35 (鏡像法3)

無限に広い平面状の導体がある。その上方に金属球を絶縁体のバネ(自然長$ \ell$、バネ定数$ k$)で天井から吊るした。このときの金属球と導体との距離は$ h$だった。

(1)この金属球に電荷$ Q$を与えるとバネの伸びはどうなるか?(伸びる、縮む、変わらない で答えよ)

(2)金属球に電荷を与えたら、バネの伸びの変化は$ x$であった。このとき、金属球に与えた電荷$ Q$を求めよ。なお、金属球の重さによる伸びについては気にしなくてよい。

**

テスト問題用に無駄に複雑にしてみました。 バネは釣り合いの位置から$ x$だけ伸び縮みしたら、元に戻る方向に$ kx$だけの力(復元力)が発生します。
 

* * *

問題36 (鏡像法:球状の導体のパターン)

半径$ R$の球状の導体があり、それを接地しておく。

その導体球の中心か$ r$ ($ r>R$)だけ離れた位置に点電荷$ q$と配置した。 このとき、鏡像電荷をどこに配置したら良いだろうか?

(1) 導体球の中心があった場所から$ a$だけ離れた位置に$ q'$という電荷を配置したとして、周囲にできる電位を求めよ。

(2) アポロニウス定理という数学上の定理がある。それは「ある2点$ A,B$があり、 その2点からの距離をそれぞれ$ r_A,r_B$と書いたとして、

$\displaystyle \frac{r_A}{r_B}=\frac{a}{b}
$

という関係を満たす点の集合は、線分$ \bar{AB}$$ a:b$で内分する点と、$ a:b$で外分する点の両方を通る球面になる」という定理である。このことを利用して、 鏡像電荷の置き場所と電荷の量を定めよ。

**

ちょっと問題の作り方が雑なので、他の本も参考にする必要があるかもしれません。

とにかく球状の導体のパターンではアポロニウス定理が鍵になります。そして鏡像電荷の場所と電荷量を決めるのは「導体表面があった場所の電位が等しくなる」ことがポイントです。

 

* * *



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