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この記事の元 : 演習の授業風景1 問題を解くための物理の教科書 (電磁気)
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7. 理論的な概観の整理

さて6回にわたって電磁気学のお話をしてきました。今日は最後のおまけの授業 日7.1なので、 特に新しいことには触れず電磁気学の概観をちょっと整理しておきましょう。

この授業は「演習」の授業なので、とにかく「問題を解く」ことに主眼を 置いて説明してきました。 そんなだったので、ガウスの法則に対しては「特定の場合に電場を楽に求められ る」とか、アンペールの法則に対しては「特定の場合に磁場を楽に計算できる」 とか身も蓋もない言い方をしてきました。 けどこれって、とても偏った見方です。 問題を解けるようになればやる気も出るし、理解が進むとも思います。だけど こういう“問題を解く”ことのみに集中しているのは、本来の“学問を楽 しむ”というスタンスからはあまり感心できないことのような気がします。 そんなことが実は話しながらも気にかかっていまして、せっかく余分な時間がで きたので、 理論的な概観と称して少し古典電磁気学の全体像についてお話させてください。 ちょっと私の懺悔にお付き合いいただくってことになります7.2

7.1 古典電磁気学

さて電磁気学が目的としていることは、初回にも話をしたように「電場と磁場が 時間と共にどういう変化をするか」を知ることです。そして、実験して 確認したりしながら、次の4つの式が電場$ \vec{E}$、磁場$ \vec{B}$(および 電荷密度$ \rho$、電流密度$ \vec{i}$ )の間で、常に成り立っていると考えら れるようになりました。

div$\displaystyle \vec{E}$ $\displaystyle =\frac{1}{\epsilon_0}\rho$    
div$\displaystyle \vec{B}$ $\displaystyle =0$    
$\displaystyle \ensuremath{\mbox{rot}}\vec{E}$ $\displaystyle =-\frac{\partial \vec{B}}{\partial t}$    
$\displaystyle \ensuremath{\mbox{rot}}\vec{B}$ $\displaystyle =\mu_0\vec{i}+\mu_0\epsilon_0\frac{\partial \vec{E}}{\partial t}$    

これら4つの式を定式化した人の名前にちなんでMaxwell方程式と呼んでいます。 (なおここで書いた式は全て真空中として書きました)

電磁気学では、この4つの式を出発地点にします。この4式は常に成り立っている と考えて、あとは考えたい状況に合わせて式を変形します。 ちなみにこの式が本当に常に成り立っているの?と疑うかもしれませんね。その 姿勢は大切です。もしもこの4式が成り立っていると考えて理論的に出した結果 が実験事実と矛盾したら“この4式が常に成り立っている”という前提が間違っ ていたということになります。だけど、そのような実験は見つかっていません。 なので今まで実験で確かめられている範囲に限れば、この4式は常に成り立って いると考えてよいでしょう。

さて、これら4つの基本方程式をそれぞれ軽く眺めていきましょう。

まず1つ目。

   div$\displaystyle \vec{E}=\frac{1}{\epsilon_0}\rho
$

という式です。これは先に「微分形のガウスの法則」として紹介しましたね。

ガウスの法則を説明した際には「微分形は使いにくい。これを積分形で書く」と 話して、積分形の使い方を説明しました。 この説明だけだと「じゃあ積分形だけ知っていればいいんじゃない?」と思うか もしれません。

なぜ使いにくい微分形などを考えないといけないのか? それは、微分形のガウスの法則の方が、応用範囲が広いからです。 微分形のガウスの法則を特定の条件の下で書き直せば、授業中に「クーロンの法 則」という呼び名で紹介した

$\displaystyle \vec{E}(r_0)=\int \frac{1}{4\pi\epsilon_0}\frac{\rho}{(r-r_0)^2}\vec{e} dv
$

という式に変形することができます。 微分形のガウスの法則からは、数学的な式変形をすることで「積分形のガウスの 法則」に変形することもできれば、なじみ深い「クーロンの法則」の形に書き換 えることもできるのです。 もちろん積分形のガウスの法則と微分形のガウスの法則は、全く同等のものです から、積分形のガウスの法則からクーロンの法則を出すこともできるのですが、 それは途中で一度は微分形を経由して…ってことになると思います。

そんなわけで微分形のガウスの法則の方をより基本的だと見なして、電磁気学の 基本方程式 Maxwell方程式の一つに数えるわけです。

またこのガウスの法則は、電場と電荷の間に常に成り立つ関係式ですが、そもそ も電場とはどういうものか、電荷とはどういうものかを定めている式であると見 なすことも可能です。

まとめておくと、

$\displaystyle \begin{array}{\vert@{\quad}l@{\quad}\vert}
\hline
\begin{array}{c...
... \Uparrow \\
\quad \text{電場と電荷について定めている式}
\\ \hline
\end{array}$

ということです。 積分形のガウスの法則は任意の立体$ V$に対して成立します。 また、上でクーロンの法則と書いたものの積分範囲は、 電荷が存在している場所すべてでの積分です。

それでは次の式に移りましょう。次の基本方程式は、

   div$\displaystyle \vec{B}=0
$

というものです。

これは「磁場に対するガウスの法則」などと呼ばれたりします。 これまでの授業時間では特に触れませんでした。なぜ触れなかったかというと 「問題を解く上で特に役に立たないから」です。

この式は「この世の中に単位磁荷(モノポール:N極だけS極だけが単独で存在して いる状態)は存在しない」ということを示している式です。 Maxwellの4つの式を眺めていると、ここの右辺に$ \rho_m$のような項が出てきた ほうが電場と磁場の対応がきれいに見える…と思うかもしれませんね。 だけどそれは人間の目の勝手な都合。    div$ \vec{B}=0$と考えた方が 自然をとてもよく説明できるのです。

ほとんど、まとめるまでもないですが、

$\displaystyle \begin{array}{\vert@{\quad}c@{\quad}\vert}
\hline
\left.
\begin{a...
...xt{(応用する上では特に役立つ場面は…ない??)}
\end{array}\\ \hline
\end{array}$

ということになります。

それでは3つ目の式を見てみましょう。3つ目は、

$\displaystyle \ensuremath{\mbox{rot}}\vec{E} = -\frac{\partial \vec{B}}{\partial t}
$

という式です。 この式は「微分形のファラデーの法則」と呼ばれます。 磁場が時間変化したら電場に渦が生まれるという「磁場の変化が電場に与える影 響」について定めている式です。

この式の両辺を面積分したら、積分形のファラデーの法則に式変形することがで きます。敢えて微分形で書いているのは、ガウスの法則のときと同じく、この方 が応用範囲が拡がるからです。

まとめておくと、

$\displaystyle \begin{array}{\vert@{\quad}l@{\quad}\vert}
\hline
\begin{array}{...
...\quad \text{電場と磁場の影響の及ぼし合い方を定めている。}
\\ \hline
\end{array}$

となります。

それでは電磁気学の基本方程式の最後の一つを見てみましょう。これです。

$\displaystyle \ensuremath{\mbox{rot}}\vec{B}=\mu_0\vec{i}
+\mu_0\epsilon_0\frac{\partial \vec{E}}{\partial t}
$

この式は「マクスウェル・アンペールの法則」と呼ばれています。 最後の項 $ \mu_0\epsilon_0\frac{\partial \vec{E}}{\partial t}$さえなければ、 授業中にも扱った「微分形のアンペールの法則」

$\displaystyle \ensuremath{\mbox{rot}}\vec{B}=\mu_0 \vec{i}
$

になりますね。もともと観測結果として知られていた「磁場と電流の関係」はこ のように $ \mu_0\epsilon_0\frac{\partial \vec{E}}{\partial t}$という項がな い式でした。

だけど先に見たFaradayの法則によれば「磁場が時間変化したら電場に影響を与 える」ようです。それならば「電場が時間変化したとき、磁場に影響を与える のではないか?」とMaxwellは推理したのでしょう。電場の時間変化というのは、 いってみれば“電流が流れたのと同じような効果”になりそうですね。 そこで電場の時間変化を電流密度と同じように足し算してみました。

この

$\displaystyle \epsilon_0\frac{\partial \vec{E}}{\partial t}
$

の部分を“変位電流”と呼んでいます。

そしてこの変位電流の効果を「アンペールの法則」に加えるとどんなことが 起きると予想されるのかといえば、この変位電流の項の影響で「電場と磁場 が互いに影響を及ぼし合いながら伝播していく“電磁波”が発生する」というこ とになります。 ここでもしいくら測定しても「電磁波は存在しない」ということになったら、 この変位電流という 考え方は間違っていたと判断するべきでしょう。だけど、現実は Maxwellが変位電流の項を付け加えてから数十年後、電磁波が存在していること が確かめられました。 なので、これまで授業で扱っていた「アンペールの法則」だけでは不十分、より 正確には変位電流のことを考慮にいれるべき…ということになります。

さて、このアンペールの法則(および改良版アンペールの法則)は、「電流と磁場 の間に成り立つ関係式」です。言い方を変えれば「この式によって磁場とはなに かが定められている」とも言えるでしょう。

そして微分形のアンペールの法則から、数学上の式変形を経て、より使いやすい 積分形のアンペールの法則に書き換えることも可能です。そしてそれだけでなく、 微分形のアンペールの法則を変形してビオ・サバールの法則の形にすることも可 能です。 微分形のガウスの法則に対して言ったのと同じ理由で、やはりアンペールの法則 は微分形の方をより基本的な方程式と見なしましょう。

まとめておきます。

$\displaystyle \begin{array}{\vert@{\quad}l@{\quad}\vert}
\hline
\begin{array}{c...
...xt{ファラデーの法則と合わせて、電磁波の発生を予言}
\\ [.7em] \hline
\end{array}$

と、こんな感じです。

大学1年生向けの講義では、この電磁気学の基本方程式で あるMaxwell方程式の4つが歴史的にどのように発見されてきたかという順序で 説明を受けることが多いようです。 だけど古典電磁気学の体系としては、この4つの方程式が出発地点になります。 どんな問題に対しても、まずこのMaxwell方程式を立てて、状況に応じた条件を 付けて方程式を変形して、解く…という流れです。 みなさんもこの4つの方程式を出発地点として、今までの話であっても、より 高度な話題であっても、挑戦して解いていくことができる…はずです。

話していないこと

この授業では話していない内容だけど電磁気学では大事な事柄として、 ひとつは「電磁波の発生」についての考察が挙げられるでしょう。Maxwell方 程式から本当に電磁波が出るか、出るのはどんなときかなど知っておくと良い と思います。

また、上に書いたMaxwell方程式はすべて真空中で成立する形で書きました。 これを物体の中だとどう書き変わるのかということも、知っておくとよいで しょう。「物体中の電磁気学」の話題です。

そういった話をする時間はありませんでしたので、ぜひ他の教科書に当たって、 勉強をしてみて欲しいと思います。

それでは半年に渡っての演習の授業、みなさまお疲れさまでした!

7.2 *おまけの問題

問題31 (Gaussの定理)

次の等式を「ガウスの定理」と呼ぶ。

$\displaystyle \int_{V}\ensuremath{\mbox{div}}\vec{F} dv=\int_{S}\vec{F}\cdot d\vec{S}
$

ここで、左辺は任意の立体$ V$内での体積積分を表し、右辺はその立体の表面$ S$上での面積分を表す。

このとき、

(1) 電場に関するガウスの法則の微分形: $ \ensuremath{\mbox{div}}\vec{E}=\rho/\epsilon_{0} $ から、積分形: $ \int_{S}\vec{E}\cdot d\vec{S}=\frac{1}{\epsilon_{0}}\int_{V}\rho dv $ を導け。

(2) 磁場に関するガウスの法則の積分形: $ \int_{S}\vec{B}\cdot d\vec{S}=0 $ から、微分形: $ \ensuremath{\mbox{div}}\vec{B}=0 $ を導け。

**

以前にもやりましたが、微分形のガウスの法則と積分形のガウスの法則の間を 行き来する練習です。

そして次の問題は、アンペールの法則に対して、微分形と積分形を行き来する 練習です。

 

* * *

問題32 (Stokesの定理)

次の等式を「ストークスの定理」と呼ぶ。

$\displaystyle \int_{A}\ensuremath{\mbox{rot}}{\vec{F}}\cdot d\vec{S}=\oint_{C}\vec{F}\cdot d\vec{\ell}
$

ここで、左辺は任意の面$ A$上での面積分を表し、右辺はその面の周$ C$に沿った線積分を表す。

このとき、

(1) アンペールの法則の微分形: $ \ensuremath{\mbox{rot}}\vec{B}=\mu_{0}\vec{i} $ から、積分形: $ \oint_{C}\vec{B}\cdot d\vec{\ell}=\mu_{0}\int_{S}\vec{i}\cdot d\vec{S} $ を導け。

(2) 電場に関する $ \oint_{C}\vec{E}\cdot d\vec{\ell}=0 $ という等式から、微分形: $ \ensuremath{\mbox{rot}}\vec{E}=\vec{0} $ を導け。



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執筆者:山本明 ([物理屋さん]山本屋本舗 提供の記事) 投げ銭受け付け中!