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この記事の元 : 演習の授業風景1 問題を解くための物理の教科書 (電磁気)
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6. ビオ・サバールの法則とファラデーの法則

今日はビオ・サバールの法則について説明したいと思います。

前回アンペールの法則というのをやりましたが、皆さん覚えていますか? アンペールの法則が何だったかというと、磁場---磁石の力---と電流の関係 を教えてくれる法則でした。 電流が流れるとその周りには磁場が発生します。 そしてどれくらいの電流が流れるとどれくらいの磁場が発生するのか書き表した のがアンペールの法則でした。 その電流と磁場の間の関係式を利用して、ある電流が流れているときにその周り にできる磁場を計算したりしましたね。

だけどアンペールの法則でどんなときでも磁場を計算できるかというと、そんな ことはありません。いや、アンペールの法則はどんなときにも成り立っている基 本的な方程式なので、数学が得意な人ならばアンペールの法則を使ってどんなと きでも磁場を計算できるとも言えます。でも大抵の人にとっては、それは難しい。 アンペールの法則では電流が特定の流れ方をしているときには楽に磁場を求める ことができるけど、もっと複雑な流れ方をしているときにはアンペールの法則は ちょっと使いにくくなります。

それじゃあアンペールの法則で磁場が求められないときはどうしたらいいのかと いうと、そんなときはビオ・サバールの法則を使えばいいのです。 ビオ・サバールの法則は、アンペールの法則と同じく「磁場と電流の関係を示す 関係式」です。そして、電流がどんな流れ方をしていても、その周りにできる磁 場を計算することができる、とてもパワフルな式なんです。

こんなこと言っていると、それじゃあアンペールの法則には意味がないんじゃな いかと疑問に思うかもしれませんね。 そういうわけではありません。 なぜなら、ビオ・サバールの法則とアンペールの法則はどちらも同じものだから です。アンペールの法則を変形していくことで、ビオ・サバールの法則の形にす ることが可能です。 アンペールの法則も微分形があって、そこから使いやすい積分形に式変形しまし たね。同じように、微分系のアンペールの法則を使いやすい形に書き直したのが、 ビオ・サバールの法則です。 そういう意味でアンペールの法則の方が、より根本にある式として重要視されて いるのです。 歴史的には、ビオ・サバールの法則が先に発見されています。電流と磁場の間に はこんな関係があるんじゃないか?とビオさんとサバールさんが発見したのです。 だけどその関係式をいろいろと数学的に書き直してみると、他にも応用しやすい アンペールの法則の形になったのです。

6.1 電流があるときの磁場の求め方2 (ビオ・サバールの法則)

さて、それじゃあビオ・サバールの法則とはどんなものかを説明していきましょ う。まずビオ・サバールの法則というのは、

ビオ・サバールの法則

$ \longrightarrow$ 電流がつくる磁場を必ず計算する方法。

です。その基本となる考え方はこうです。 複雑な形をした導線があるとしましょう。複雑でなくとも、こんな風に曲がって いればそれだけでアンペールの法則は使いにくくなりますね。 そしてこの導線には、電流が流れているとしましょう。 導線から少し離れた位置にできる磁場を計算してみたいとします。 さて、いきなり導線全体がこの位置につくる磁場を計算しようにも、複雑すぎて うまくいきません。それじゃあ、どうするか---こうします。 導線をすごく細かく、切ってしまいます。そしてとても短い導線の集まりだとし て考えてしまいます。 導線に電流が流れていました。それはこの短い導線それぞれに電流が流れていた ということです。 そしてこの短い導線一つに注目しましょう。 短い導線一つが、考えている点につくる磁場を求めましょう。 そして、導線全体がつくる磁場というのは、その細かい導線それぞれがつくる磁 場をすべて足し算したものであると考えるのです。
ビオ・サバールの法則

$ \longrightarrow$ 電流がつくる磁場を必ず計算する方法。

(考え方)
「電流の微小部分がつくる磁場を考えて、電流が流れている全区間の分を足し上 げる。」

このように電流が流れている部分を細かく分けて、それぞれの電流がつくる磁場 を足し算しようというのが、ビオ・サバールの法則の基本となる哲学です。

それじゃあ、微小な部分を流れる電流がつくる磁場を求めることはできるのか? というと、これは可能なのです。 このような式で求めることができます。

電流が大きさ$ i$$ d\vec{s}$という方向に流れている場合、 電流の位置から$ \vec{r}$だけ離れた位置にできる磁場$ d\vec{B}$は、

$\displaystyle d\vec{B}=\frac{\mu_0}{4\pi}\frac{id\vec{s}\times\vec{r}}{\vert\vec{r}\vert^3}
$

となる。

$ {\mu_0}/{4\pi}$というのは、実験と矛盾がないようにうまく定めた比例定 数です。 この式はなぜこうなるの?と聞かれても困ってしまう式です。なぜならば、この 式は「実験してみたらこうなっていた」という式だからです。そして実際に実験 して、このような式が成り立っていると指摘したのが、ビオさんとサバールさん なんです。

とにかく、このように微小な電流がつくる磁場がわかりました。あとはこれを足 し算(積分)すれば、電流がつくる磁場を計算することができますね。 どんな複雑な形の電流でも、細かく分けてから足し算する---という操作で、 磁場を計算できます。 ただ式の形を見てもらうとわかる通り、この計算をするのはかなり大変な計算に なることが多いです。

電流があって、そこから磁場を計算したいというとき、アンペールの法則なら計 算は楽ちんです。だけど、特定の電流にしか使えません。ビオ・サバールの法則 ならどんな電流でも原理的には計算できます。だけど、計算はかなりやっかいに なることが多いです。

それでは、まとめておきましょう。

ビオ・サバールの法則

$ \longrightarrow$ 電流がつくる磁場を必ず計算する方法。

(考え方)
「電流の微小部分がつくる磁場を考えて、電流が流れている全区間の分を足し上 げる。」

電流が大きさ$ i$$ d\vec{s}$という方向に流れている場合、 電流の位置から$ \vec{r}$だけ離れた位置にできる磁場$ d\vec{B}$は、

$\displaystyle d\vec{B}=\frac{\mu_0}{4\pi}\frac{id\vec{s}\times\vec{r}}{\vert\vec{r}\vert^3}
$

となる。

$ \vec{B}$を求めるには、これを全ての電流の区間について積分する。

最後にひとつ注意を述べておきますが、このビオ・サバールの法則という関係式 は、磁場の大きさだけでなく方向も教えてくれる関係式になっています。 左辺も右辺もベクトルになっていますね。 なので、最後の足し算(積分)をするときは、ベクトルの方向も意識して積分しな いといけません。 そのことがビオ・サバールの法則を使った計算を難しくしているところですが、 まあ注意してやるようにしてください。

6.2 *問題練習

それでは実際に問題を解いてみましょう。

問題28 (Biot-Savertの法則 / 円状電流が作る磁場)

半径$ a$の円状に大きさ$ I$の電流が流れている。

この円の中心から垂直に$ x$だけ離れた点に作られる磁場(磁束密度)の大きさ $ \vert\vec{B}\vert$を求めよ。

\includegraphics{fig5-3.eps}

**

ビオ・サバールの法則は大きさだけでなく方向も決めている式だということ に注意してください。つまり方向を意識して、うまく足し算してください。
 

* * *

問題29 (コイルのつくる磁場)

真空中に半径$ r$、単位長さあたりの巻き数$ n$のコイルがある。そのコイルに大 きさ$ I$の電流を流したとする。

(1) このコイルを無限に長いコイルであると考えた場合の、コイル内に生じる磁 場の強さ$ \vert\vec{B}\vert$を、アンペールの法則を用いて求めよ。

(2) このコイルの長さを$ \ell$とする。コイルの中心軸上、端から$ a$だけ離れた 点に生じる磁場の強さ$ \vert\vec{B}\vert$を求めよ 。 ただしコイルの巻数は十分に大きく、導線の本数は各点で連続的に変化すると見 なしてよいことにする。

(3) (1) の結果と(2) の結果を比較すると、 どちらのほうが大きいか。また、なぜそのような結果になるのかを考察せよ。

**

コイルも導線でできているのですから、それを細かく分けてそれぞれがつくる 磁場を全て足す---というのがちゃんとした求め方です。

だけど今の場合、直前の問題(円状電流がつくる磁場)の答えを利用してしまい ましょう。

 

* * *

6.3 電場と磁場の間の関係(ファラデーの法則)

それではもう一つの話題についても説明したいと思います。 それは「電場と磁場の関係を示す法則---ファラデーの法則」です。

電磁気学というのは、電気の力や磁石の力について考える学問です。そして電気 の力や磁石の力を知るためには、電場や磁場を調べればいいということで、電磁 気学では電場や磁場についていろいろと勉強します。

そして私たちはすでに電場を求める方法を知っています。ガウスの法則とクーロ ンの法則です。そして磁場を計算する方法も知っています。アンペールの法則と ビオ・サバールの法則です。 つまり、電場だけ磁場だけを考えている場合に対しては、もう全て学んだといえ ます。もちろん、細かい議論や問題練習は必要でしょうが、問題を解くための道 具はすでに揃っています。

電場について、磁場についての勉強が終わったら、じゃあどうするかというと、 今度は電場と磁場の間にどんな関係があるかを考えてみましょう。

実は電場と磁場というのは、お互い無関係なもののように思えますが、実際には お互いに影響を与えあうような仲なんです。 電場が時間とともに変化したとします。するとそれは電流が流れているのと同じ 効果を示し、その周囲に磁場が発生します。 また磁場が時間とともに変化すると、今度はその周りに電場が発生することにな ります。

これから勉強するファラデーの法則というのは、磁場が時間とともに変化したと きにどんな電場が発生するのかを示す法則であるといえます。

さて話の出発地点はこれです。

電荷の大きさ$ q$の粒子が磁場$ \vec{B}$の中を速度$ \vec{v}$で動いていると、 その粒子は

$\displaystyle \vec{F}=q\vec{v}\times\vec{B}
$

の力を受ける。(これをローレンツ力という)

これも実験で調べてみたらこうだったというわけです。 ---電荷を持っている粒子が磁場中を動くと、磁場の影響で力を受ける。 ちょっと聞くと「そんなもんかなぁ」かもしれませんが、これはなかなか不思議 な関係式なんですね。 だって、電荷というのは「電気の力をどれくらい受けやすいか、与えやすいか」 を示す数値です。磁場というのは「磁石の力をどれだけ与えるか」という数値で す。電荷にとって磁場というのはまるで関係がなさそうな量です。実際、電荷が 止まっているときには、なんの関係もありません。だけどひとたび電荷が動き出 すと、磁場は電荷に影響を及ぼすことになるのです。

磁場中を電荷が動くと電荷に力がかかります。 電荷に力がかかるということは、それはあたかも「そこに電場があるかのよう」 に見えます。 実際には全く違ったメカニズムかもしれない。 だけど、電荷に力が加わるという点では共通です。そして、私たちにわかるのは 電荷に力が加わっているということだけ。その根本がなんであれ、見分けること などできません。 そこで、「磁場中を電荷が動くと電場が発生する」と言えるわけです。

これをもっと別の言い方をしてしまいます。磁場中を電荷が動くと電場が発生し ます。だけどこれを、電荷を中心に据えた言い方をしてみましょう。 電荷が動いているんじゃなくて、磁場の方が動いていると考えてしまいます。 もしくは磁場が時間とともに変化しているんだと考えましょう。 そしてそんなときには「電場が発生する」というわけです。

とにかく、これが基本となる考え方です。 これを踏まえて、コイル(閉じた導線の回路)が磁場中を移動しているような状況 を考えてみましょう。コイルは導線です。導線の中には電子がたくさん詰まって います。 コイルが磁場中を移動すると言うことは、コイルの中にある電子も磁場中を移動 することになります。 その結果、先で述べたローレンツ力を受け、電子はコイルの中を動き出します。 電子が動く、つまりコイルに電流が流れるわけです。

さてコイルに電流が流れる---普通、電池のような装置でコイルに電圧(起電力) を与えないと、電流は流れないですよね。 だけど、コイルを磁場中移動させると、あたかも電圧(起電力)がかかっているか のように、電流が流れることになります。

つまりコイルを磁場中移動させると、電圧がかかっているかに見えるということ で、どのように移動させたらどれくらい電圧(電場をコイルを1周り積分したもの) がかかるかを示した式がファラデーの法則なのです。 その関係式というのは、こんな感じ。

磁場$ \vec{B}$中をコイルが移動する際に発生する電圧(起電力・電場をコイル1 周積分したもの)$ V$

$\displaystyle V=-\frac{d}{dt}\Phi \,\, ,
$

となる。ただし、$ \Phi$というのは $ \displaystyle \Phi=\int_{\text{コイル}}
\vec{B}\cdot d\vec{S}$という面積積分で与えられる量。

これが「ファラデーの法則」です。

さて、ここまでの説明では、磁場中をコイルが動いたら…としていましたが、そ うではなくて、コイルは動いていないとします。そしてそのコイルの周りの磁場 の大きさが変化したとします。するとどうなるか。 それは、コイル周りの磁場が変化しているわけですが、その状況はコイルにとっ てはコイルが磁場中を動いているのと同じような効果があるでしょう。

つまり、上に書いたファラデーの法則というのは、コイルが磁場中を移動してい る場合に限らず、コイルの周りの磁場が時間とともに変化したときに生じる起電 力をも表している式だと言えます。

磁場が時間とともに変化したときもコイルを貫く磁場を全て足し上げたもの(面 積分したもの)が時間とともにどう変化するかに応じて、電流を流す力---電圧 (起電力)が発生するのです。

6.4 *問題練習

問題30 (誘導起電力(Faradyの法則))

$ y$軸上を正方向に電流$ I$が流れている。$ x$-$ y$平面上、一辺$ \ell$の正方形の導線(コイル)が$ (a,0)$, $ (a+\ell,0)$, $ (a+\ell,\ell)$,$ (a,\ell)$を頂点にして置かれている。

(1) $ (a,0)$の位置における磁束密度$ \vec{B}$を求めよ。

(2) 正方形のコイルが$ x$軸正の方向に速さ$ v$で動き始めた。そのとき コイルに生じる誘電起電力を求めよ。

\includegraphics{fig-farady.eps}

**

$ \Phi=\int_{\text{コイル}}\vec{B}\cdot d\vec{S}$の時間変化をいきなり計 算しようとしても大変です。そこである時刻のコイルの位置と、その時刻から $ \Delta t$時間が経ったあとのコイルの位置を図に書いて、コイルを貫く磁場 がどれくらい変化するか $ \Delta\Phi$というのを考えてみてください。

$ \Delta\Phi/\Delta t$ $ \Delta t\to 0$としたものが$ d\Phi/dt$、つまり コイルに発生する起電力ということです。

 

* * *

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執筆者:山本明 ([物理屋さん]山本屋本舗 提供の記事) 投げ銭受け付け中!