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この記事の元 : 演習の授業風景1 問題を解くための物理の教科書 (電磁気)
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0. 電磁気学の概論

いきなり本題に入っていってもいいんですが、細かい議論に振り回されて、「一体自分はなにをやろうとしているのか」ってことを見失ってしまっては困ります。そこでまずは、大雑把に電磁気学という分野はなにを目指しているのか、どういうことをやるのかってことを話しておきたいと思います。

前期に力学をやったときは「力学は物体の動きを予測しようとする学問だ」と話しました。 物体の位置や速度といったものが、時間とともにどのように変化するかを求める学問が力学です。 そういった位置や速度が時間とともにどう変化するかを教えてくれるのがNewton方程式でした。 Newton方程式と呼ばれる微分方程式を立てて、それを解く---そうすると、物体の動きがわかるという流れです。

物理学が目指しているものは、最終的には「物体の動きを予測したい」ということです。これは力学だろうと電磁気学だろうと変わりません。 そして物体の動きを予想するためには、「Newton方程式が立てられればいい」わけですね。 さらにNewton方程式を立てるためには、「物体に働く力がわかればいい」のでした。

はい、電磁気学がなにを目指しているか---それはやはり、「物体の動きを知りたい」ということです。そのためには、物体に働く力がわかればいい。 ただこれまでと違うのは、電磁気学で扱うのは電気と磁気…つまり電荷磁荷を持っている物体だけを考察の対象としている点です。電荷とは「電気の力をどれくらい受けやすいか、電気の力をどれだけ他に与えるか」という量だと思っておいてください。磁荷というものも同様に「磁気の力をどれだけ受けるか、与えるか」と考えておきましょう。 つまり、

物体の動きが知りたい
$ \uparrow $
Newton方程式を立てて解けばいい
$ \uparrow $
物体に働く力がわかればいい
$ \Uparrow $   $ \Uparrow $
電荷に働く力を知りたい   磁荷に働く力を知りたい
ということです。

そして線から上の部分、つまり物体に働く力がわかって、Newton方程式を立てて、解いて…というのは、「力学」の範囲です。それについては前期で、さんざんやってきましたので、後期の「電磁気学」ではもうやりません。 電磁気学は「電荷に働く力」「磁荷に働く力」がわかったら、それで満足。あとは力学の知識を使って、好きなとき好きなように物体の動きを求めればいいわけです。

さてそんな風に電荷に働く力、磁荷に働く力を知りたいというのが電磁気学の立場ですが、実はこれらに働く力は、「電場」と呼ばれるものと「磁場」と呼ばれるものがわかれば、それだけで力はわかるんです。 電場とは「電荷があるために生まれる空間の性質」だと思っておいてください。そして磁場は「磁荷があるために生まれる空間の性質」といったところです。ただ磁場については「電荷の位置が変化することによって生じる空間の性質」と表現した方が、より正確かもしれません 1。まあ電場と磁場については、おいおい説明していきます。 ひとまず電磁気学では、主に「電場」と「磁場」について調べていきます。

物体の動きが知りたい
$ \uparrow $
Newton方程式を立てて解けばいい
$ \uparrow $
物体に働く力がわかればいい
$ \Uparrow $   $ \Uparrow $
電荷に働く力を知りたい   磁荷に働く力を知りたい
$ \uparrow $   $ \uparrow $
電場 がわかればそれでいい   磁場 がわかればそれでいい
(電荷があるために生じる空間の性質)   (電荷の動きによって生じる空間の性質)

なんにしても、電磁気学で扱いたいのはこの「電場」と「磁場」です。これらが時間とともにどう変化するか、互いにどのような影響を及ぼしあうかということを電磁気学では知りたいと思っています。 つまり電磁気学の目的というのは、

電磁気学の目的: 電場と磁場が時間とともにどう変化するかを知る。

ということなんですね。そして、そのことを教えてくれるのが「Maxwell方程式」というものなんです。 Maxwell方程式は、電場や磁場が時間とともにどう変化するかを教えてくれる微分方程式(もしくは積分方程式)になっています。

電磁気学の授業では最終的には、このMaxwell方程式を導くところまでを目指しています。半年という授業期間ですので、その直前で止まってしまう場合が多いんですが、まあ目指しているのはそういうもの。

以上が、おそらく講義で行われるであろう、電磁気学の概要です。

さて、詳しい説明はせずに「電場」とか「磁場」とか言ってきましたが、これらは「ベクトル関数」です。空間の各点ごとに一つのベクトルが対応しているものです。

電磁気学では、ゆくゆくはこのベクトル関数に関する微分方程式を得たいと思っているわけですから、まずはベクトルの扱い方に慣れておく必要があるでしょう。ということで、まずはじめの節として「数学の準備(ベクトル解析)」をやっておきましょう。

教科書などでも一番始めに数学の話が載っていたりします。唐突な感じがして、なんでこんなことをやらなきゃならないのか疑問に思うでしょうが、ゆくゆくの目的を果たすのに便利なように、あらかじめ勉強しておきましょうってことです。

電磁気学をやっていくと、いろんな法則が出てきます。詳しくはその都度、学んでもらえばいいんですが、まあそれらがどんなものなのか、どんな立場のものなのかってことも、最後に軽く触れておきたいと思います。

まず出てくる法則は「クーロンの法則」。これは電荷に働く力を求める法則です。もしくは電場を求めるためにも使えます。 そして「ガウスの法則」というものもあって、これは電場を求めるために使います。

電荷に働く力を知りたい $ \longleftarrow $ クーロンの法則
  $ \swarrow $  
電場を知りたい $ \longleftarrow $ ガウスの法則

次に「ビオサバールの法則」「アンペールの法則」というものに出会うでしょうが、これらは(電流があるときの)磁場を求めるための法則です。

    ビオサバールの法則
  $ \swarrow $  
磁場を知りたい $ \longleftarrow $ アンペールの法則

そして磁場が変化したときに電場がどんな影響を受けるか、ということを示す法則が「ファラデーの法則」と呼ばれるものです。

\begin{displaymath}
\begin{array}{ccc}
\text{電場}
& \xleftarrow{\text{(磁場の...
...}
\\
\multicolumn{3}{c}{\text{ファラデーの法則}}
\end{array}\end{displaymath}

まあ、授業で扱われるのはだいたいこの5つの法則でしょう。 ガウスの法則、アンペールの法則、ファラデーの法則は、少し書き直すとMaxwell方程式(全部で4つの方程式の集まり)の一つになります。 それぞれ、どんなものなのかってことを考えながら、気をつけて授業を聞いてみてください。



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執筆者:山本明 ([物理屋さん]山本屋本舗 提供の記事) 投げ銭受け付け中!