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この記事の元 : 演習の授業風景1 問題を解くための物理の教科書 (電磁気)
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1. 数学の準備(ベクトル解析と面積分・体積積分)

細かい数学の話は、はしょります。ひとまずどうやって計算するのかがわかるよ うに、というレベルの話しかしません。

電磁気学ではベクトルに関する微分方程式や積分方程式を解こうとします。つま り、ベクトルの足し算・引き算、かけ算、微分とか積分といった操作を知ってお く必要があります。 ベクトルの足し算・引き算はいいですよね。それぞれの成分を足したり引いたり するだけ。これらは高校数学でやってきてるはずなのでここでは話しません。

問題にするのは「ベクトルのかけ算」と「ベクトルの微分」です。 順番に解説していきましょう。

1.1 ベクトルのかけ算

まずは「ベクトルのかけ算」だ。これには2種類あります。 「ベクトルの内積」「ベクトルの外積」という言葉を聞き慣れている人は、この 部分は読まなくても大丈夫。「ベクトルの微分」まで飛ばしちゃってください。

はい「ベクトルのかけ算」の一つ目を紹介します。それは「ベクトルの内積」。

これは高校でもおなじみでしょう。 $ \vec{A}\cdot\vec{B}$ と書きますね。大き さは、二つのベクトルの大きさを掛けて、 $ \cos\theta$を掛けたもの

$\displaystyle \vec{A}\cdot\vec{B}=\vert\vec{A}\vert\vert\vec{B}\vert\cos\theta
$

ですね。 $ \theta$ってのは、二つのベクトルの間の角度です。

この量がどんな量なのかというと、 $ \vert\vec{B}\vert\cos\theta$というのが $ \vec{B}$$ \vec{A}$の方向に射影したときの長さを表してて、それ に$ \vec{A}$の大きさを掛けた量。つまり、二つのベクトルが同じ向きにどれく らいの値を持っているかという量ですね。

成分で書き下しておきましょう。今後、ベクトルはどれも3次元空間で考えます ね。とすると、ベクトルの内積というのは、ベクトルのそれぞれの成分同士をか け算して、足し挙げたもの

$\displaystyle \vec{A}\cdot\vec{B}$ $\displaystyle =$ $\displaystyle \vert\vec{A}\vert\vert\vec{B}\vert\cos\theta$  
  $\displaystyle =$ $\displaystyle A_xB_x+A_yB_y+A_zB_z$  

になっています。 $ \vec{A}\cdot\vec{B}=\vert\vec{A}\vert\vert\vec{B}\vert\cos\theta $と いうのが元々の式。これに $ \vec{A}=(A_x,A_y,A_z)$ , $ \vec{B}=(B_x,B_y,B_z)$を代入して、えっちらおっちら計算すれば、この結果 は出てきます。

ここで注意しておきたいことは、このベクトルの内積: $ \vec{A}\cdot\vec{B}$と いうのは、ベクトルとベクトルを掛けたものですが、最終的には1成分だけの量、 つまりスカラーになっているということです。 ベクトルの内積とは、「ベクトルからスカラーに変化させるような積である」と いうことに注意しておいてください。

\begin{displaymath}
\begin{array}{rll}
\text{ベクトルの内積}
& \multicolumn{2}...
...ert\vec{B}\vert\cos\theta
& = A_xB_x+A_yB_y+A_zB_z
\end{array}\end{displaymath}

それじゃあ、もう一つのベクトルのかけ算についてお話ししましょう。 これは「ベクトルの外積」と呼ばれるもので、 $ \vec{A}\times\vec{B}$と書きま す。 先ほどの「ベクトルの内積」は「ベクトルからスカラーにするようなかけ算」だ と言いました。今度の「ベクトルの外積」というのは、実は「ベクトルからベク トルにするようなかけ算」なんです。

どんな定義かというと、ベクトルとベクトルのかけ算がベクトルになるというこ とで、掛けた結果にも「大きさ」と「方向」がでてきて、

$\displaystyle \vec{A}\times\vec{B} =
\left\{
\begin{array}{l}
\text{大きさ: } \...
... 方向 : } \vec{A}\text{と}\vec{B}\text{の両方に垂直な方向}
\end{array}\right\}
$

となります。$ \vec{A}$$ \vec{B}$の両方に垂直な方向というのを$ \vec{C}$と 書くことにしましょう。

$\displaystyle \vec{A}\times\vec{B} = ( \vert\vec{A}\vert\vert\vec{B}\vert\sin\theta ) \vec{C}
$

です。$ \theta$は先と同じく、二つのベクトルの間の角度です。

この量がなにを表しているかですが、 $ \vert\vec{B}\vert\sin\theta$というのは、 $ \vec{B}$から$ \vec{A}$におろした垂線の長さになっています。つまりこの量の 大きさというのは「$ \vec{A}$$ \vec{B}$で作られる平行四辺形の面積」を表し ているわけです。「底辺×高さ」になっていますよね。

ベクトルの外積についても、成分で書き下しておきましょう。これははっきり言っ て、書くのが面倒になるようなものなんですが、

$\displaystyle \vec{A}\times\vec{B} =
\left(
A_yB_z - A_zB_y \,,\,\,
A_zB_x - A_xB_z \,,\,\,
A_xB_y - A_yB_x
\right)
$

となります。カッコの中は左から順にx成分,y成分,z成分。 これも $ \vec{A}\times\vec{B}=(\vert\vec{A}\vert\vert\vec{B}\vert\sin\theta )\vec{C} $と いうのが元々の式で、これに $ \vec{A}=(A_x,A_y,A_z)$ , $ \vec{B}=(B_x,B_y,B_z)$を代入して、ひたすら計算していけば、この結果にな ります。疑い深い人は確認してみてください。1度やってみれば納得するはずです。1.1

最後にまとめておきますと、

ベクトルのかけ算

\begin{displaymath}
\begin{array}{rll}
\text{ベクトルの内積}
& \multicolumn{2}...
...A_zB_x - A_xB_z \,,\,\,
A_xB_y - A_yB_x
\right)
\end{array}\end{displaymath}

ということです。 以上が、ベクトルのかけ算のお話。それじゃあ、少し問題を解いてみてください。

1.2 *問題練習(ベクトルのかけ算)

まずは計算練習です。

問題1 (ベクトルの内積と外積)

$\displaystyle \vec{A}$ $\displaystyle =(2,3,-4)$    
$\displaystyle \vec{B}$ $\displaystyle =(-1,5,0)$    
$\displaystyle \vec{C}$ $\displaystyle =(5,-3,0)$    

のとき、次の量を計算せよ。

(1)  $ \vec{A}\cdot\vec{B}$

(2)  $ \vec{A}\times\vec{B}$

(3)  $ \vec{A} \cdot (\vec{B}\times\vec{C}) $

(*) (3)で計算した $ \vec{A} \cdot (\vec{B}\times\vec{C}) $は、どんな量になっているだろうか?

**

どれもただ計算するだけ。それぞれベクトルなのかスカラーなのかに注意して解 いてください。また(*)は内積と外積の意味をよく考えてみてください。 $ \sin\theta$とか $ \cos\theta$とかに注意して考えれば、 $ \vec{A}, \vec{B},
\vec{C}$をそれぞれひとつの辺とする立体(平行六面体)の面積を計算していると いうことがわかると思います。

さて次は内積と外積に関する一般的な公式。これも計算練習です。それぞれのベ クトルの成分を適当な文字において、計算してみてください。

 

* * *

問題2 (内積・外積に関する公式)

$ \vec{A}, \vec{B},
\vec{C}$を任意のベクトルとする。これらに関して、次の関 係式が成り立つことを証明せよ。

(1) $ \vec{A}\cdot(\vec{B}\times\vec{C})
=\vec{B}\cdot(\vec{C}\times\vec{A})
=\vec{C}\cdot(\vec{A}\times\vec{B}) $

(2) $ \vec{A}\times(\vec{B}\times\vec{C})
= (\vec{A}\cdot\vec{C})\vec{B}-(\vec{A}\cdot\vec{B})\vec{C} $

**

例えば、 $ \vec{A}=(A_x,A_y,A_z)$というように書いて、それぞれの式を展開す れば関係式が成り立つことを証明できると思います。
 

* * *

1.3 ベクトルの微分

それでは、次に「ベクトルの微分」についてお話ししましょう。

電磁気学では、ゆくゆくはベクトルの関数についての微分方程式を得たいんです ね。そのためにはベクトルの微分について知っておく必要があります。ここでは ベクトルの微分として2種類、それと関連した微分をもう1種類で、全部で3種類 の微分の話をします。

まずはベクトルの微分の一つ目。

ベクトルの発散「 $ \ensuremath{\mbox{div}}\vec{V}$」というものです。発散というのを英語で書 くとdivergenceとなります。その頭文字3つをとって、記号にしているんですね。 「ダイバージェンス・ぶいベクトル」と読みます。 これはどんな値かというと、次のように計算して求めることができる値です。

$\displaystyle \ensuremath{\mbox{div}}\vec{V}=\frac{\partial}{\partial x}V_x
+\frac{\partial}{\partial y}V_y
+\frac{\partial}{\partial z}V_z
$

$ V_x$というのは$ \vec{V}$$ x$成分。$ V_y$というのは$ y$成分で、$ V_z$$ z$ 成分です。 これにどういう意味があるかは、おいおい話していくことにして、ひとまず、こ んな計算の仕方で求まる量なんだと思っておいてください。 ベクトルのそれぞれの成分をそれぞれ対応する$ x,y,z$で微分して、その結果を全 部足す。それがベクトルの発散です。

このベクトルの発散について、ひとつ注意しておくと、これは「ベクトルからス カラーに変化させる微分」になっているということです。$ \vec{V}$というのは ベクトルですね。だけど、 $ \ensuremath{\mbox{div}}\vec{V}$の計算式を見てみると、右辺はもう ただの数。スカラーになっています。

ベクトルの発散は、ベクトルからスカラーを作る微分だということを覚えておい てください。

では続いて、ベクトルの微分の二つ目を紹介しましょう。

今度はベクトルの回転「 $ \ensuremath{\mbox{rot}}\vec{V}$」です。読み方は「ローテーション・ぶいベクトル」です。回転という のを英語で書くと、rotationです。その頭文字3つをとって、記号にしたわけで すね。古い教科書・問題集だと、rotではなくcurl(「カール」と読みます)と書いてある場合もあります。 書き方が違うだけで、これは同じもの。もしcurlというのを見かけても、慌てず にrotと読み替えちゃいましょう。この講義では、すべてrotに統一してお話しし ます。

はい、さっきのベクトルの発散は、「ベクトルからスカラーへの微分」でした。 今度のはなんだろうか、というと、今度は「ベクトルからベクトルへの微分」になっています。このこと注意してくださいね。 $ \ensuremath{\mbox{rot}}\vec{V}$という量は、ベクトルなのです。

具体的にまた成分で書き下してみましょう。 $ \ensuremath{\mbox{rot}}\vec{V}$の計算法を見てみま す。実はこれまた複雑な形になってて、あまり書きたくはないのですが、

$\displaystyle \ensuremath{\mbox{rot}}\vec{V}=\bigl(
\frac{\partial}{\partial y}...
...z\,,\,\,
\frac{\partial}{\partial x}V_y -\frac{\partial}{\partial y}V_x
\bigr)
$

となります。小さな添え字やマイナス符号に注意してくださいね。 この量がどういう意味を持っているのかについては、またおいおい話するという ことで今日はちょっと省略させてください。計算法としては、こんな風にして計 算します。

このベクトルの回転なんか、計算式覚えにくいですよね。よく使われる覚え 方を紹介します。

ベクトルの発散やベクトルの回転を簡単に覚えるために、次のような量を考えま しょう。

$\displaystyle \nabla=\bigl( \frac{\partial}{\partial x}\,,\,\,
\frac{\partial}{\partial y}\,,\,\,
\frac{\partial}{\partial z}
\bigr)
$

$ \nabla$という記号は「ナブラ」と読みます。ベクトルみたいな量です。$ x$成 分、$ y$成分、$ z$成分みたいになってます。ただ、それぞれの成分はただの数じゃ ないですね。$ x$で偏微分する記号だったり、$ y$で偏微分する記号だったりして います。そんなわけで普通のベクトルとは違う。だけど、``だいたい''ベクトル みたいなもの。ベクトルもどきです。

このベクトルもどきの量を使ってどうするかというと、まずベクトルの発散--- ベクトルからスカラーへの微分は、

$\displaystyle \nabla\cdot\vec{V}=\ensuremath{\mbox{div}}\vec{V}
$

と覚えてしまいます。 $ \nabla\cdot\vec{V}$というのは$ \nabla$$ \vec{V}$の 内積という意味だ。内積の成分計算の式を思い出すと、

$\displaystyle \nabla\cdot\vec{V}
=\frac{\partial}{\partial x}V_x
+\frac{\partial}{\partial y}V_y
+\frac{\partial}{\partial z}V_z
$

となっていますね。そんでこの式というのは、 $ \ensuremath{\mbox{div}}\vec{V}$そのまんまです。

$ \nabla$$ \vec{V}$の内積として、ベクトルの発散を覚えることができるでしょ う。それじゃあ、ベクトルの回転 $ \ensuremath{\mbox{rot}}\vec{V}$の方はどうしようか。 ベクトルの回転は、ベクトルからベクトルへの微分でした。こうやって覚えます。

$\displaystyle \nabla\times\vec{V}=\ensuremath{\mbox{rot}}\vec{V}
$

外積の式を覚えていないといけないけれど、こう考えれば $ \ensuremath{\mbox{rot}}\vec{V}$としては 楽に覚えられるはず。 外積を成分で書き下した式を思い出しましょう。すると、

$\displaystyle \nabla\times\vec{V}
=\bigl(
\frac{\partial}{\partial y}V_z -\frac...
...z\,,\,\,
\frac{\partial}{\partial x}V_y -\frac{\partial}{\partial y}V_x
\bigr)
$

ベクトルもどき$ \nabla$を使って、ちゃんと上のようになっていることが確かめ られるはずです。

ベクトルもどきの$ \nabla$という量を導入すれば、ベクトルの発散は内積、ベク トルの回転は外積、というように覚えることができます。簡潔に表記することができます。 実はこの書き方というのは珍しいものではなくて、結構よく使われる書き方です。 ぜひこれも覚えておいてください。

さて最後に、スカラー関数の微分だけど、ベクトルの微分に関係するものを紹介 します。 それは「スカラーの勾配」というものです。 勾配を英語で書くとgradientです。この頭文字4つをとって、例えば「 $ \ensuremath{\mbox{grad}}\phi$」 というように書き、「グラディエント・ふぁい」と読みます。

今まで見てきたのは「ベクトルからスカラーへの微分( $ \ensuremath{\mbox{div}}\vec{V}$)」だっ たり「ベクトルからベクトルへの微分( $ \ensuremath{\mbox{rot}}\vec{V}$)」だったりしました。今 度の勾配、 $ \ensuremath{\mbox{grad}}\phi$はどんな微分なのかというと、これは「スカラーからベ クトルへの微分」になっています。

元の関数$ \phi$はスカラー---成分を持たない普通の関数---ですが、 $ \ensuremath{\mbox{grad}}\phi$はベクトルになっているわけです。つまり成分がある。具体的に書 き下すと次のようになります。

$\displaystyle \ensuremath{\mbox{grad}}\phi=\bigl(
\frac{\partial}{\partial x}\p...
...
\frac{\partial}{\partial y}\phi\,,\,\,
\frac{\partial}{\partial z}\phi
\bigr)
$

$ x,y,z$のそれぞれの成分は、それぞれの変数で関数を偏微分したものになって います。これは $ \ensuremath{\mbox{rot}}\vec{V}$よりもずっと覚えやすいでしょう。

さっきの$ \nabla$を使って書くと、

$\displaystyle \nabla\phi=\ensuremath{\mbox{grad}}\phi
$

となります。ベクトル(もどき)のスカラー倍になっているように見えますね。

はい、以上でベクトルに関する微分のお話しもおしまい。 ベクトルからスカラーへの微分、ベクトルからベクトルへの微分、スカラーから ベクトルへの微分の3種類をお話ししました。それぞれ、どういう意味を持つ量 なのかは、おいおい話す機会があると思います。

ひょっとすると、この調子でスカラーからスカラーへの微分ってのはないのか? と思う人がいるかもしれませんね。それは今日は話しませんでした。けど、スカ ラーからスカラーへの微分ってのは、要するに普段やってる微分のことです。普 通の関数の微分---あれがスカラーからスカラーへの微分になっている。だか ら特に新しいことはなにもないので、話しませんでした。

\begin{displaymath}
\begin{array}{ccrl}
\text{ベクトルの発散}
&
& \multicolum...
...hi\,,\,\,
\dfrac{\partial}{\partial z}\phi
\bigr)
\end{array}\end{displaymath}

1.4 *問題練習(ベクトルの微分と積分)

問題3 ( gradの計算)

$ \displaystyle \phi(\vec{r})=-\frac{1}{r} $のときの $ \ensuremath{\mbox{grad}}\phi(\vec{r})$を計算せよ。 ただし、 $ r=\vert\vec{r}\vert=\sqrt{x^{2}+y^{2}+z^{2}}$ である。

**

この問題は計算練習。 $ \frac{1}{r}$$ x,y,z$で微分するだけです。分数の積 分や置換積分について思い出してください。この形の計算として、電磁気学を 勉強していけば必ず出会うはずの関数の形を使っています。

そして次からの問題2つは、ベクトル関数の積分です。これまた電磁気学で出会 うはずの計算ですから、ぜひ実際にやってみてください。

 

* * *

問題4 (ベクトル関数の体積積分)

3次元空間$ (x,y,z)$中の各点で次のように定義されたベクトル $ \vec{F}(x,y,z)$を 考える。

$\displaystyle \vec{F}(x,y,z)=
\left(
2x^2z \, ,\, -y^2 \, ,\, 2yz
\right)
$

また3次元空間中の立体として、(0,0,0)(1,0,0)…(1,1,1)を頂点とする1辺の長 さが1の立方体を考え、それをVと呼ぶことにする。(右図参照)

\includegraphics{fig1-2.eps}
立方体 V

(1) このベクトル場の発散: $ \ensuremath{\mbox{div}}\vec{F}$ を計算せよ。

(2) $ \ensuremath{\mbox{div}}\vec{F}$ を立方体 V の内部全体で積分せよ 1.2



問題5 (ベクトル関数の面積分)

3次元空間$ (x,y,z)$中の各点で次のように定義されたベクトル $ \vec{F}(x,y,z)$を 考える。

$\displaystyle \vec{F}(x,y,z)=
\left(
x^2y+yz \, ,\, x+y^2 \, ,\, yz^2
\right)
$

また$ x$-$ y$平面上、(0,0,0),(2,0,0),(2,1,0),(0,1,0)を頂点とする長方形を考え、それをAと呼ぶことにする。

(1) このベクトル場の回転: $ \ensuremath{\mbox{rot}}\vec{F}$ を計算せよ。

(2) $ \ensuremath{\mbox{rot}}\vec{F}$ を長方形 A の内部で面積分せよ 1.3

**

$ \vec{F}$というのは単に一般的なベクトルとして書いているだけです。これが 力を表してるとか、そういう意味は全くありません。

さて(1)については、どちらの問題でも説明しなくていいですよね。単に計算す るだけです。練習と思ってやってみてください。

(2)については説明がいるかもしれない。

まずは問題4(2)についてだけど、これは「立体Vの内部全体で積分 せよ」という指示。そのためには、まず$ x$について0から$ 1$まで積分しま しょう。そうしたものをさらに$ y$について0から$ 1$まで積分してしまう。 $ x$について積分して$ y$について積分したものを、最後に$ z$について0から $ 1$まで積分する。

積分ってのは、その場所場所での値を足し算していくってこと。$ x$について積 分したらそれは線上の値を足し上げたってことで、それをさらに$ y$について積 分したら面上の全ての点の値を足したことになる。そして最後に$ z$について積 分したら、立体的に積分したことになる。

この問題では積分範囲が単純になるようにしてありますが、もっと複雑な立体 について積分することもあるかもしれません。そのときは積分範囲がどのように なるかに注意してください。考え方はだいたい共通しているはずです。

問題5(2)についてですが、これは面積分です。計算してもらいたい のは $ \int_A \ensuremath{\mbox{rot}}\vec{F} \cdot d\vec{S}$です。ここで$ d\vec{S}$と書いたのは 微小の面積要素ベクトル。考えている面が$ x$-$ y$平面にあるので、大きさとし ては$ dS=dxdy$です。ベクトルなんで大きさだけでなく方向も持っています。 こんな風に面で積分しようとするときは、面積要素ベクトルは「考えている面の 法線方向」を向いていると考えます。 つまり、 $ d\vec{S}=\vec{e}_zdxdy$です。考えている面の法線とはつまり$ z$方向 の単位ベクトルですね。それを$ \vec{e}_z$と書きました。あとはこれと $ \ensuremath{\mbox{rot}}\vec{F}$との内積をとって、積分するだけです。

余裕のある方は、ぜひ脚注に書いてある計算もしてみてください。すると

$\displaystyle \int_{\partial V} \vec{F} \cdot d\vec{S}
= \int_{V} \ensuremath{\mbox{div}}\vec{F} dv
$

$\displaystyle \oint_{\partial A} \vec{F} \cdot d\vec{s}
= \int_{A} \ensuremath{\mbox{rot}}\vec{F} \cdot d\vec{S}
$

という関係が見えるはずです。

$ \partial V$というのは考えている立体Vの境界、つまり六面体の表面である 6つの面を指しています。つまりVの表面の6つの面それぞれについて面積分して みろ…という指示です。 $ \partial A$というのは、考えている面Aの境界、つまり四角形の周りの4辺を 指しています。Aの周りの4つの辺について積分してみてください。ただしこの ときは、積分の方向にも注意しましょう。ぐるっとAの周りを1周するように積分 の方向を選びます。

いまは$ \vec{F}$として具体的な形を用いて計算し、上の2つの式を確かめてもら いましたが、この関係式というのは、実はどんなベクトルについても、どんな立 体についても、どんな面についても成立する関係だということがわかっています。 ひとつ目の式を「ガウスの定理」、ふたつ目を「ストークスの定理」と呼んでい ます。

 

* * *

**

最後は $ \ensuremath{\mbox{grad}}, \ensuremath{\mbox{div}}, \ensuremath{\mbox{rot}}$に関する一般的な公式です。余裕のある人は 実際に確かめてみてください。物理で扱う関数は、 $ \frac{\partial^2}{\partial x\partial y}f(x,y)
=\frac{\partial^2}{\partial y\partial x}f(x,y)$が成立するものばかりです。 そのことに注意して、具体的に計算しようとしてみてください。どの式も確かに 成立するってことがわかると思います。
 

* * *

問題6 ( $ \ensuremath{\mbox{grad}}, \ensuremath{\mbox{div}}, \ensuremath{\mbox{rot}}$に関する公式)

$ \phi(r)$は任意の関数、 $ \vec{A}(r)$は任意のベクトル関数とする。省略記号 $ \nabla$を次のように導入する。

$\displaystyle \nabla \phi(r)$ $\displaystyle =$ $\displaystyle \ensuremath{\mbox{grad}}\phi(r)$  
$\displaystyle \nabla\cdot\vec{A}(r)$ $\displaystyle =$ $\displaystyle \ensuremath{\mbox{div}}\vec{A}(r)$  
$\displaystyle \nabla\times\vec{A}(r)$ $\displaystyle =$ $\displaystyle \ensuremath{\mbox{rot}}\vec{A}(r)$  
$\displaystyle \nabla^2\vec{A}(r)$ $\displaystyle =$ $\displaystyle \bigl(
\frac{\partial^2}{\partial x^2}
+\frac{\partial^2}{\partial y^2}
+\frac{\partial^2}{\partial z^2}
\bigr) \vec{A}(r)$  

その上で、次の等式を証明せよ。

(1) $ \nabla\times(\nabla\phi(r))=0 $

(2) $ \nabla\cdot(\nabla\times\vec{A}(r))=0 $

(3) $ \nabla\times(\nabla\times\vec{A}(r))
=\nabla(\nabla\cdot\vec{A}(r))-\nabla^2\vec{A}(r) $



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執筆者:山本明 ([物理屋さん]山本屋本舗 提供の記事) 投げ銭受け付け中!