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この記事の元 : 演習の授業風景1 問題を解くための物理の教科書 (電磁気)
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2. 電場と電位 ・クーロンの法則

今日は電場と電位についてお話しします。 電場とか電位とかいうのはどちらも「電荷が存在するときに生じる空間の性質」 です。

電磁気学では、この電場と電位が時間や状況とともにどう変化するのかについて 考えていきます。なぜなら、電場というのは電荷を持つ物体に働く力に関係する 量で、電位というのは電荷を持つ物体が複数ある時のエネルギーに関係する量だ からです。力がわかればNewton方程式を立てて物体の動きを予想できるし、エネ ルギーがわかれば方程式を解かなくてもいろいろなことがわかるから、どちらも 大事な量なんですね。

2.1 電場について : 電場の求め方1 (クーロンの法則)

それでは電場の求め方からみていきましょう。

そのためにまず、電気の力を他に与えたり電気の力を他から受けたりする度合い を表す量として「電荷」というものを用意しておきます。 電気の力をたくさん受けたり与えたりするなら電荷は大きい数字、電気の力をあ まり受けたり与えたりしないならば電荷は小さな数字が対応します2.1。 電気の力を全く受けない場合は電荷は0。プラスの電気は電荷として正の数字、 マイナスの電気には電荷として負の数字を対応させます。

それではひとつ目の大事な法則です。電荷と電場を関係づける法則、クーロンの 法則です。

クーロンの法則 (実験で確認された法則)

電荷$ q$$ r$だけ離れた位置に作る電場 $ \vec{E}(r)$

$\displaystyle \vec{E}(r)=\frac{1}{4\pi\epsilon_0}\frac{q}{r^2} \vec{e}_r$   $ \vec{e}_r$$ \vec{r}$方向の単位ベクトル。 $\displaystyle \frac{\vec{r}}{r}$とも書く。

と求められる。

これは電荷があるときにその周囲にできる電場を表した式です。もしくは「こう 書けるものが電場である」という取り決めをしている式だと見なしても構いませ ん。とにかく電場はこのように書ける量なのです。

ここに出ている $ \epsilon_0$というのは真空の誘電率などと呼ばれています。今 のところは、この式が実験とうまく合うように帳尻あわせをするための数と思っ ておいてください。

このように電場が求められたら、電荷に働く力がわかる2.2のです。

$ \longrightarrow$ 電場が$ \vec{E}$である位置に電荷$ q'$があるとき、 $ q'$にかかる力$ \vec{F}$ $ \vec{F}=\vec{E}q'$ と求めら れる。

つまりイメージとしてはこんな感じ。電気の力を外に与える力を持っている物体 が存在していると、その周囲には「電場」と呼ばれる得体の知れない能力が備わ る。 電荷というのは電気の力をどれだけ与えるかという量だから、その数に比例して 空間は変化を受ける。そして、電場が存在している場所に別の電荷がやってきた ら、その新しい電荷はそこの電場の影響を受けて、電場の大きさと自分が持つ電 荷を掛け合わせた分の力を受ける。 要するに電荷というのは、周囲にどれくらいの大きさの電場を作るか、また電場 の影響をどれくらい受けるかという二つの側面があるわけです。

上で囲った公式を見てわかるとおり、電荷を持つ物体の近くでは電場は大きいの に対して、その物体から遠くに離れるほど電場は小さくなっていくということも わかります。遠くに離れるというのは距離$ r$が大きくなるということ。 分母が大きくなれば、数としては小さくなりますね。

これらは比較的、常識的に理解できることだと思いますがどうでしょうか。

ひとつ実際に使ってみましょう。電荷がふたつ、離れておいてあるときにどれく らいの力を受けるか考えてみましょう。

電荷ふたつは$ q,q'$とします。離れている距離は$ r$としましょう。

まずは電荷$ q$が存在しているせいで、電荷$ q'$が受ける力というのを考えてみ ます。 電荷$ q$が存在していると、その周囲には電場 $ \vec{E}(r)$が発生します。その 大きさと向きは、公式から

$\displaystyle \vec{E}(r)=\frac{1}{4\pi\epsilon_0}\frac{q}{r^2} \vec{e}_r$

となりますね。 $ \vec{e}_r$というのは、電荷$ q$から電荷$ q'$を見た方向を指しています。

電荷$ q$から$ r$だけ離れた位置に、電荷$ q'$が存在しているわけなので、この電 荷$ q'$が受ける力というのは、

$\displaystyle \vec{F}=\vec{E}(r)q'
=\frac{1}{4\pi\epsilon_0}\frac{qq'}{r^2} \vec{e}_r
$

ですね。 これは公式を当てはめただけです。

いまは電荷$ q'$が受ける力を求めました。次は逆に電荷$ q$が受ける力も 求めてみましょう。電荷$ q$だけでなく、電荷$ q'$も電場を作っています。その 電荷$ q'$が作った電場によって、電荷$ q$は力を受けるのです2.3

電荷$ q'$が作る電場というのは、

$\displaystyle \vec{E}(r)=\frac{1}{4\pi\epsilon_0}\frac{q'}{r^2} \vec{e}_r
$

ですね。さっきとは分子の$ q$のところが変わっています。さらに$ \vec{e}_r$と いうのは、さっきと同じ文字を使いましたが、違うものを指しています。さっき は電荷$ q$から電荷$ q'$を見た方向でしたが、今度は逆 ---電荷$ q'$から電荷 $ q$を見た方向を指しています。

この電場によって、電荷$ q$は力を受けます。電荷$ q'$から$ r$だけ離れた位置に 電荷$ q$は存在しているので、その受ける力は

$\displaystyle \vec{F}=\vec{E}(r)q
=\frac{1}{4\pi\epsilon_0}\frac{q'q}{r^2} \vec{e}_r
$

ですね。 $ q'q$$ qq'$も同じ数なんで、電荷$ q$が受ける力と電荷$ q'$が受ける力の大き さは同じだってことがわかります。

同じ文字を使ってて紛らわしいですが、違うのは$ \vec{e}_r$の部分。$ q$から $ q'$を見た方向か、その逆か。つまり、働く力の方向は逆であるということです。 これは力学でいうところの「作用反作用の法則」です。

以上でふたつの電荷の間に働く力についての説明は終わり。実は歴史的には、こ のふたつの電荷に働く力に関する式が先に発見された式です。そのため、「クー ロンの法則」というと、 $ \vec{F}=...$の式を指す場合が多いです。ただここで は、歴史的な順序にはこだわらずに、電場の式の方を根本にある式だと考えて、 そちらを「クーロンの法則」と呼んでおきます。

複数の電荷があるときの電場

クーロンの法則は、電荷があるときの電場を求めるための法則として、とても強 力なものです。これはどんな風に電荷が存在しているときでも、適用することが できます2.4

けど先に書いたクーロンの法則は、一つの電荷が作る電場を求めるための式です。 それじゃあ、たくさんの電荷が存在しているときはどうなるのか?と考えてみま しょう。実はこれは単純。

電荷がたくさんあるときは…:

公式から出る電場を全ての電荷について足し算する(積分する)。

足し算する、もしくは積分する。全ての電荷について足してしまうという意味で、 どちらも同じことを指しています。これについては実際にやって慣れてください。

2.2 電位について

それでは今度は「電位」というものについて考えてみましょう。 電位は電場の「渦なしの法則」なんかと一緒に解説されることが多いですが、こ こではそういう理論的な話は省きます。ごく単純に電位というのは、エネルギー と関係が深い量だと説明しておきます。先に「電場がわかれば力がわかる」とい うことを見ていますね。それと同じように、電位がわかると、それに電荷を掛け てエネルギーが得られる…そんな量なんです。

電位 : エネルギーを楽に求めるための表式。

電位を$ \phi(r)$、電場を $ \vec{E}(r)$と書くと、 $ \vec{E}(r)=-\ensuremath{\mbox{grad}}\phi(r)$ という関係もある。

空間中に電荷が存在していると、その電荷の周りに変化が生まれて「電場」が生 じる。またそれと同時に「電位」というのも生じているわけです。「電位」とい うのは電荷が存在しているために引き起こされる空間の性質。「電場」も電荷が 存在しているために引き起こされる空間の性質ですが、それと違った見方をして いるものが「電位」です。

電場も電位も「電荷が空間に及ぼす影響」を表してて、同じものを違った角度か ら見ているようなものです。そのために、電位がわかれば電場を求めることがで きます。その式が $ \vec{E}(r)=-\ensuremath{\mbox{grad}}\phi(r)$という関係です。 また、電場がわかればそこから電位を求めることもできます。その表式をこれか ら見ていきます。

さて、先に簡単に「電位はエネルギーを楽に求めるためのもの」だと書きました。 それじゃあどうやってエネルギーと関係付けられるのかを見ておきましょう。

電荷$ q$から$ r$だけ離れた位置に電荷$ q'$をおいておくのに必要なエネルギー: $ U(r)$

$\displaystyle U(r)=\phi(r)q'
$

とする。このように書ける量: $ \phi(r)$ を電荷$ q$がつくる「電位」と呼ぶ。

電荷が一つだけ存在しているだけでは、エネルギーなんて考える必要ないです。 電荷が二つあったとすると、同符号の電荷だったら反発し合うし、異符号の 電荷だったら引きつけ合う。そんな反発したり引きつけあったりするもの同士を 特定の場所に固定しておくには、エネルギーが必要です。そのエネルギーは、そ の状態に「蓄えられているエネルギー」だともいえます。これを物理では「静電 エネルギー」と呼ぶこともあります。

特定の配置に電荷を留めておくのに必要なエネルギーが、静電エネルギー。その 静電エネルギーと関係している量が「電位」です。電位の具体的な表式を求める ために、上で書いたエネルギーについて丁寧に考えてみましょう。

考えるエネルギーは「電荷$ q$から$ r$だけ離れた位置に電荷$ q'$をおいておくの に必要なエネルギー」です。 これは別の見方をすると「電荷$ q$が存在しているときに、別の電荷$ q'$を無限 遠方から$ r$という距離まで運んでくるときに必要な仕事」とも言えます。

仕事というのは、力×移動距離 ---つまり力を通る経路で積分すればいいわけ です。電荷$ q'$にかかる力は、電荷$ q$が作る電場を$ E(r)$とすれば$ E(r)q'$で す。これに逆らって(逆方向に力を掛けて)電荷を移動させるわけですから、式で 書くと $ -\int_{\infty}^{r}E(r)q'dr$という計算で仕事を求めることができます。 これらをまとめると、

$\displaystyle U(r) =$ ($ q'$を無限遠方から運ぶときの仕事)    
$\displaystyle =$ $\displaystyle -\int_{\infty}^{r}E(r)q'dr$    
$\displaystyle =$ $\displaystyle \,\, \begin{array}{\vert c\vert} \hline %\displaystyle
-\int_{\infty}^{r}E(r)dr \\ \hline \end{array} \, q'$    
  $\displaystyle \qquad \qquad \quad \Leftarrow \phi(r)$    

最後は、$ q'$を積分の外に出しただけです。そして四角で囲った部分を $ \phi(r)$だと考えると $ U(r)=\phi(r)q'$となってて、うまくつじつまが合いま すね。

つまり、電場がわかっているときの電位の求め方というのは、

$\displaystyle \phi(r)=-\int_{\infty}^{r}E(r)dr
$

なんですね。

電場がベクトルだったということを思い出す人は、積分するときの積分経路(ど ういう道順で無限遠方から$ r$という位置まで移動するか)の方向も気にしてくだ さい。ベクトルであることも気にして書けば、

電位$ \phi(r)$は、 $ \displaystyle \phi(r)=-\int_{\infty}^{r}\vec{E}(r)\cdot d\vec{r}$ と計算する。

となります。ベクトル$ \vec{E}$とベクトル$ d\vec{r}$の内積を積分するわけで す。 これはクーロンの法則の式と同じく、大事な式。電位を求めるための公式として、 覚えておいてください。

電荷が複数あるときは、これまた全ての電荷について足してしまえば、そのとき の電位が求められます2.5

2.3 ここまでのまとめ

電荷が存在すると、その周囲に電場と電位が生じる。電場も電位も同じものを 違った見方をしているだけなので、片方がわかれば他方も計算できる。

電荷$ q$$ r$だけ離れた位置に作る電場 $ \vec{E}(r)$は :

$\displaystyle \vec{E}(r)=\frac{1}{4\pi\epsilon_0}\frac{q}{r^2} \vec{e}_r$

ただし、$ \vec{e}_r$$ \vec{r}$方向の単位ベクトル。

電場 $ \vec{E}(r)$がわかっているときの電位$ \phi(r)$の計算法 :

$\displaystyle \phi(r)=-\int_{\infty}^{r}\vec{E}(r)\cdot d\vec{r}
$


電位$ \phi(r)$がわかっているときの電場 $ \vec{E}(r)$の計算法 :

$\displaystyle \vec{E}(r)=-\ensuremath{\mbox{grad}}\phi(r)
$

2.4 *問題練習

問題7 (点電荷に働く力、点電荷のつくる電場)

原点に点電荷$ q$がある。

(1) この点電荷が$ r$だけ離れた位置につくる電場 $ \vec{E}$を求めよ。

(2) 原点から$ a$だけ離れた位置にも点電荷$ q$があるとする。そのとき、 この新しい電荷にかかる力$ \vec{F}$を求めよ。

(3) 二つの電荷が無限に離れた状態と比較して、$ a$だけ離れた点に電荷 を持ってくるにはどれだけのエネルギーが必要だろうか。 そのエネルギーを求めよ。

(4) 点電荷$ q$が原点にあるとき周囲にできている電位$ \phi(r)$を求めよ。 ただし原点からの距離を$ r$とする。

(5) 原点に点電荷$ q$があり、原点から$ a$だけ離れた位置に別の点電荷$ -q$を 固定しておく。このとき蓄えられている静電エネルギー$ U$を求めよ。



問題8 (複数の電荷がある場合)

2次元平面$ (x,y)$上、$ (-d,0)$ , $ (d,0)$ の位置に電荷$ +q$を設置し た。このとき、

(1) $ (0,a)$の位置にできる電場$ \vec{E}$を求めよ。

(2) $ (0,a)$の位置にも$ +q$の電荷を置いたとき、この電荷にかかる力$ \vec{F}$を 求めよ。

(3) $ (0,a)$の位置の電位$ \phi$を求めよ。

(4) $ (0,a)$の位置に電荷$ +q$を置いておくのに必要な仕事(つまり静電エネルギー) $ U$を求めよ。

\includegraphics{fig1-1.eps}

**

電荷が複数あるときは、それぞれの電荷が作る電場を足し算すればいいわけ です。ベクトルの足し算だということに注意してください。わかりにくいと きは、それぞれの電荷が作る電場の$ x$成分と$ y$成分をそれぞれ求めて、成 分同士を足し算する…としてみてください。

電位は電場を無限遠方から考えている位置まで積分するわけですね。積分す る道順として、計算しやすい道順を選びましょう。電場の向きと同じ向きを 選ぶと計算しやすいです。つまり$ y$軸上の無限遠方から$ y=a$という位置ま で積分するわけです。

 

* * *

問題9 (電荷が連続的に分布している場合)

$ x$軸上、 $ x=-\ell\sim\ell$の区間に一様に電荷が分布している。その電荷密度を$ \rho$として、$ y$軸上にできる電場 $ \vec{E}(y)$を求めよ。

**

これは電荷が連続的に分布している場合。$ x$軸上 $ -\ell\sim\ell$に隙間なく 電荷が存在している場合です。こんなときは、$ x$軸上の小さな長さ$ dx$を考え て、その小さな長さの中に電荷がどれだけ存在するかと考えます。そして、$ dx$ という小さな長さの電荷が、$ -\ell$から$ \ell$までの間にびっちり存在している と考えましょう。それらを全て足し上げる…つまり積分するわけです。

この結果を使えば、次の問題が解けるはずです。

 

* * *

問題10 (無限に長く分布した電荷が作る電場)

$ x$軸上に電荷が一様分布している。その電荷密度を$ \rho$として、$ y$軸上にできる電場 $ \vec{E}(y)$を求めよ。

問題11 (電荷が連続的に分布している場合2)

(1) 半径$ r$の輪に一様に電荷が分布している。その電荷密度を$ \rho$として、 輪の中心から上に$ z$だけ離れた点につくられる電場$ \vec{E}$を求めよ。

(2) 半径$ R$の円盤上に一様に電荷が分布している。その電荷密度を$ \rho$として、 円盤の中心から上に$ z$だけ離れた点につくられる電場$ \vec{E}$を求めよ。

((2) は(1) の結果を用いるとよい)

(1)
\includegraphics{fig2-1-1.eps}
(2)
\includegraphics{fig2-1-2.eps}

問題12 (無限に広がった平面状電荷のつくる電場)

無限に広い平面上に、一様に電荷が分布している。 その電荷密度を$ \rho$として、その平面から垂直に$ z$だけ離れた点につくら れる電場$ \vec{E}$を 問題11の結果を使って求めよ。

\includegraphics{fig2-2.eps}

**

問題10と 問題12は、それぞれ前問の結果を使えば計算 できます。クーロンの法則を使って、難しい電場を求める練習です。

このようにクーロンの法則を使うと計算はやっかいになるけど、どんな電場でも 求めることができます。 実はこれと同じ問題をガウスの法則を使って解くこともできます。ガウスの法則 は特定の状況にしか使えないけど、計算は楽ちんです。どれくらい計算が楽かを 比較するために、クーロンの法則では計算が大変だった…ということだけ覚えと いてください。

 

* * *



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執筆者:山本明 ([物理屋さん]山本屋本舗 提供の記事) 投げ銭受け付け中!