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この記事の元 : 演習の授業風景1 問題を解くための物理の教科書 (電磁気)
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3. ガウスの法則

それでは今回はガウスの法則について説明したいと思います。ガウスの法則は電 磁気学を勉強する上で、とても大事な方程式です。だけどこの授業は演習の授業 なので、ガウスの法則についての厳密な話はしません。それは別の機会に学んで ください。ここでは大雑把にガウスの法則ってのはどんなものなのか、またどん な風に使えるものなのかってことを話したいと思います。

ちなみに別の授業で「ガウスの定理」というのをやってるかもしれません。ガウ スの``定理''とガウスの``法則''は別物ですから注意してください。どちらも同 一人物のガウスさんが発見した定理だったり法則だったりしますが、内容は違っ たものです。

3.1 電場の求め方2(ガウスの法則)

ガウスの法則とは何か。それをはじめに書いておきます。それは

ガウスの法則:電場と電荷の間に成り立つ関係式

となります。

ガウスの法則とは電場と電荷間に必ず成り立つ関係式です。どんなときでも成り 立つということで、これは電磁気学の基本となる方程式のひとつです3.1。 つまりとても大事な方程式ということ。だけど、これに関する詳しい説明は省略 します。どんな関係式かをいきなり書いてしまいます。

$\displaystyle \ensuremath{\mbox{div}}\vec{E}=\frac{\rho}{\epsilon_0}
$

です。いきなり記号を使っていますが、

$\displaystyle \left\{
\begin{array}{ccl}
\vec{E}& : & \text{電場} \\
\rho & : & \text{電荷密度} \\
\end{array}\right.
$

というものです。 $ \epsilon_0$は真空の誘電率。適当な定数だと思って結構です。 こういう関係式が、常にどんなときでも成り立っているというわけです。

元々の歴史的な流れを考えると、前回やったクーロンの法則が電場と電荷の関係 を表す初めて発見された関係式でした。 クーロンの法則ははじめに予想され、さらに実験でちゃんと確認された式です。 クーロンの法則は十分に正しいだろうと信頼できるものです。 そしてそのクーロンの法則が正しかったとすると、電場と電荷密度の間には上で 書いた関係式が必ず成立するということをガウスさんが示したわけです。

歴史的にはクーロンの法則の方が基本的な式じゃないかって考えることも、あな がち間違った考え方だとはいえません。 ただ、数学的にいろいろ書き直しやすい式を考えようとしたとき、クーロンの法 則はそれ以上書き換えにくい形をしています。それに対して上で書いたガウスの 法則の式は、数学をやっている人にとってはとても書き換えやすい形になってい ます。 そんなわけで「ガウスの法則」の式が世の中の根本にあって、それを書き換えて、 いろいろな状況に対して当てはめ、電場を求めようと考えます。

そういうわけで、ガウスの法則はとても大事な方程式です。電磁気学における基 本方程式のひとつになるわけですが、それがどんな風に大事かって話は別の教科 書に譲ります。ここでは、その使い方に重点を置きたいと思います。

使い方に重点を置くといっても、上で書いた形の式は、実は使いにくいんですね。 もっと使いやすい形にしておきます。

$ \displaystyle \ensuremath{\mbox{div}}\vec{E}=\frac{\rho}{\epsilon_0}$      
$\displaystyle \downarrow \qquad$      
$\displaystyle \downarrow \qquad$ (積分形で書くと)    
$\displaystyle \downarrow \qquad$      
$\displaystyle \int_{\partial V}\vec{E}\cdot d\vec{S} =$ $\displaystyle \frac{1}{\epsilon_0}\int_{V}\rho dv$    

この最後の式が「積分形のガウスの法則」です。今日の演習では、この積分形の ガウスの法則の使い方を説明しますので、是非、覚えて帰ってください。 いきなり記号を導入していますが、$ V$とか $ \partial V$というのは

$\displaystyle \left(
\begin{array}{ccl}
V &:& \text{任意の立体} \\
\partial V &:& \text{立体$V$の表面} \\
\end{array}\right)
$

です。

微分形のガウスの法則と積分形のガウスの法則は互いに自由に書き換えることが できます。別の授業で「ガウスの定理」というのを知っている人は、この書き換 えを自分でもやってみてください。ガウスの定理というのは、ここの書き換えを 行うために必要な関係式なんです3.2。 ただまあ、ここではその書き換えについては説明しません。余力のある人が挑戦 してください。証明はとても単純です。

さて、上で書いた積分形のガウスの法則を使いましょう。そのためにこの式をも うちょっとよく見てみることにします。この式はどんな意味なのか。

ガウスの法則の意味(日本語訳?):

$\displaystyle \left(
\begin{array}{l}
\text{$\vec{E}$をある立体の} \\
\text{表...
...{その立体の内部に存在する}\\
\text{電荷をすべて足したもの}
\end{array}\right)
$

こんな関係が、任意の立体、つまり「どんな立体についても」成立するというわけ です。

これが「どんなとき、どんな立体についても成立する」ってことが、とても大事。 つまりガウスの法則という関係式がどんなとき、どんな立体についても成立する から、

$ \rightarrow$ この関係式から、(特定の場合に) 電場を求めることができる。
というわけなんです。

ガウスの法則は電磁気学ではとても大切な方程式です。だけど、それだけでなく、 問題を解こうというときにも、便利な方程式なんです。これを利用すると、どん なときでもできるってわけじゃないけど、電場を楽に求めることができるという わけです。

電場の求め方としては前回、クーロンの法則を説明しています。

クーロンの法則はどんなときにも使える式です。だからとてもパワフル。それな りに便利です。だけど前回の問題を解いた人は「計算(積分)がとても大変にな る」ってこともわかってると思います。

それに対してガウスの法則を利用したやり方は、どんなときにも使えるというわ けではありません。特定のときにしか使えません。だけど、使えるときは計算が とても楽ちんです。どんなときにも使えるわけではないけど、計算が楽。それが ガウスの法則を利用したやり方です。

ぜひガウスの法則とクーロンの法則の両方を、時と場合に応じて使い分けられる ようになってください。

ガウスの法則の使い方

それではガウスの法則を使って電場を求める手順です。参考にしてみてください。

さてガウスの法則の式を思い出してみると、

$\displaystyle \int_{\partial V}\vec{E}\cdot d\vec{S}
=
\frac{1}{\epsilon_0}\int_{V}\rho dv
$

でした。この式はどんな立体$ V$についても成立します。そしてこの両辺を眺め てみましょう。右辺は立体$ V$の中身全体での積分---体積積分---です。 そして左辺は立体$ V$の表面での積分、つまり面積分です。

体積積分と面積分を比較すると、体積積分の方が計算しやすいと感じるはずです。 面積分の方は場合にもよるけど、計算しにくいことが多いです。 そこで、ガウスの法則はどんな立体に対しても成立するということを利用して、 「面積分がやりやすいような立体を使って、ガウスの法則を適用する」ことにし ましょう。 これが今回お話しする手順のミソとなる部分です。



\begin{displaymath}\begin{array}{\vert c\vert}\hline 使い方 \\ \hline \end{array}\end{displaymath} : 面積分しやすい立体を見つける


それじゃあ、積分しやすい立体をどうやって求めたらいいのか、という手順を考 えていきましょう。まずはこれ。



\begin{displaymath}\begin{array}{\vert c\vert}\hline 使い方 \\ \hline \end{array}\end{displaymath} : 面積分しやすい立体を見つける
  1. 電場のおよその形を予想する。


電場のおよその形を予想する。電場というのはベクトルですから、およその形と いうのは、電場のおよその大きさと方向。ある位置の電場がどんな方向を向いて いてどんな大きさを持っているか予想してください。問題設定から、電荷がどん なところに分布しているかは、すでにわかっているはずです。その電荷の分布の 仕方をみて、予想してください。

そんなこといったって予想できないよ、という人はいますか? 確かにどんなとき でも予想できるわけではありません。それにこれには慣れが必要です。 それじゃあ予想できないときにはどうしたらいいのかというと、答えは単純で す。「およその形で予想できない問題は、ガウスの法則は使えないので、クーロ ンの法則を使って電場を求める」ということです。 クーロンの法則は、どんな電荷分布の時にも使えますから、計算は大変になるで しょうが頑張ってください。

とにかくガウスの法則を使うための第一の難関、またこれができたら作業の7,8 割は終えたといえるくらい大事な作業が、電場のおよその形(ベクトルの大きさ と方向)を予想するということです。

そして電場のおよその形が予想できたとしましょう。 そうしたら早速その結果を使いましょう。



\begin{displaymath}\begin{array}{\vert c\vert}\hline 使い方 \\ \hline \end{array}\end{displaymath} : 面積分しやすい立体を見つける
  1. 電場のおよその形を予想する。
  2. 電場の大きさが同じであるような面で、電荷を囲む。 その囲まれた部分が立体$ V$


ガウスの法則は、電荷をうまく面で囲まないと使えません。面で囲めたら、その 囲まれた部分を立体$ V$だと考えます。 そしてどんな面で囲むかというと、面積分がしやすいような面。面積分は

$\displaystyle \int_{\partial V}\vec{E}\cdot d\vec{S}
$

でしたね。これは$ \vert\vec{E}\vert$が等しい --- $ \vert\vec{E}\vert$が積分する面の位置 に依らない --- ようなとき、簡単に積分できます。そんなときはつまり、 $ \vert\vec{E}\vert$の部分を積分の外に出すことができるわけですね。そして積分は楽 になるというわけ。

さて、そのように積分しやすい立体$ V$がわかったとすると、あとはガウスの法 則を適用して、電場を求めるだけ。



\begin{displaymath}\begin{array}{\vert c\vert}\hline 使い方 \\ \hline \end{array}\end{displaymath} : 面積分しやすい立体を見つける
  1. 電場のおよその形を予想する。
  2. 電場の大きさが同じであるような面で、電荷を囲む。 その囲まれた部分が立体$ V$
  3. ガウスの法則を適用して、$ \vert\vec{E}\vert$を求める。
     ($ \vec{E}$の方向については予想する)


というわけです。ただし最後に書いておきましたが、この方法で求められるのは 電場ベクトルの大きさだけです。それじゃあ方向はどうするのかというと、方向 は求められないので、手順1.で予想した方向をそのまま当てはめちゃいます。

そういうふうに方向が予想できないときはどうしたらいいか。手順通りに計算し てみたら、摩訶不思議な結果になってしまったときはどうしたらいいか。その答 えも単純です。 「そんなときはガウスの法則で電場を求めることはできない」ということ。「諦 めてクーロンの法則で計算する」ことになります。

以上がガウスの法則を利用して電場を求めるためのやり方です。

3.2 例をひとつ : 点電荷

話を聞いているだけでは、いまいちピンと来ないかもしれないので、ひとつ例を やってみましょう。一番単純な例を考えます。---つまり、点電荷が作る電場 についてです。

例題

点電荷$ q$から$ r$だけ離れた位置にできる電場$ \vec{E}$を求めよ。

点電荷$ q$がひとつだけ空間中に存在している。そんなときにどんな電場ができ るか。

残念ながら、私たちはもう答えを知っています。クーロンの法則そのまんまです。 だけどそのことをしばらく忘れましょう。なにも知らない状態、そしてガウスの 法則だけを知っている状態で、どこまで考えられるかみてみましょう。

さあガウスの法則を利用して電場を求めます。そのための手順に従って考えてい きましょう。

まず手順1.として「電場のおよその形を予想する」でした。 空間中に点電荷がひとつだけ、ポツンと存在しています。そうすると、その状態 というのは、どんな方向から眺めても同じ状況に見えるはずです。 そうだとすると、まず電場の方向ですが、電場は電荷から全ての方向に等しく出 ているのではないか、と予想できると思います。 つまり電荷を中心とする放射状にベクトルは伸びているんじゃないかと考えるわ けです。 常識的に考えれば、こういう予想をすることも不可能ではないはずです。これが 電場の方向の予想です。

そして電場の方向だけでなく、電場のおよその大きさについても予想しましょう。 電場の大きさですが、これはきっと「電荷に近ければ近いほど、大きいのではな いか」「電荷から離れれば離れるほど、電場は小さくなるのではないか」と予想 しましょう。 これも常識的な予想でしょう。電荷から離れるほど電場が強くなるなんて不気味 です3.3。 まあそこまで予想できないとしても「電場の大きさは電荷からの距離に依存する」 ということを予想してください。電荷からの距離に応じて電場の大きさは変わる だろう---言い方を変えると「電荷からの距離が同じならば電場の大きさは同 じになるはず」と予想します。

$\displaystyle \begin{array}{c}
\text{予}\\ \text{想}
\end{array}\left[
\begin{a...
... \text{電荷からの距離が同じなら、$\vert\vec{E}\vert$は同じ}
\end{array}\right.
$

このように予想したなら、手順2.に移ります。「電場の大きさが同じであるよう な面で電荷を囲む」です。

電荷からの距離が同じならば電場の大きさは同じになるはずだと予想しました。 そこで、

$ \longrightarrow$ 点電荷からの距離が同じである面で電荷を囲む。
( $ \rightarrow$つまり点電荷を中心とする球面)
ということにしましょう。これが立体$ V$です。 立体$ V$は点電荷を中心とする球面です。その球面の半径を$ r$と書いておくこと にします3.4

さて、立体$ V$も決まったとすると、あとは手順3.だけです。「ガウスの法則を 適用する」ということ。やってみましょう。

まずはガウスの法則の左辺の計算です。左辺は$ \vec{E}$の面積分でした。

   (左辺)$\displaystyle =\int_{\text{球面}}\vec{E}\cdot d\vec{S}
\qquad = \vert\vec{E}\vert\cdot 4\pi r^2
$

積分する面というのが$ \vert\vec{E}\vert$が一定であるような面ですから、$ \vert\vec{E}\vert$ を積分の外に出す。残った部分は、球面の表面積になります。だから$ 4\pi r^2$ を掛けるだけ。

左辺の計算ができたら、次は右辺。右辺は $ \displaystyle
\frac{1}{\epsilon_0}\int_{V}\rho dv$という式で書いていたけど、これよりも 言葉の方で覚えてください。

   (右辺)$\displaystyle = \frac{1}{\epsilon_0}
\left(
\begin{array}{@{}l@{}}
\text{その立...
...\text{電荷をすべて足したもの}
\end{array}\right)
\quad = \frac{1}{\epsilon_0}q
$

いまの場合、立体$ V$---つまり球---の内部にある電荷というのは、点電 荷$ q$ひとつだけでした。つまり、右辺は単純にそれを $ \epsilon_0$で割ったも のになります。

これで左辺の計算も右辺の計算も終わりました。あとはこの左辺と右辺の結果を 結ぶだけ。

ガウスの法則より、

$\displaystyle 4\pi r^2 \vert\vec{E}\vert = \frac{1}{\epsilon_0}q
$

となります。両辺を$ 4\pi r^2$で割ることにしましょう。結果は

$\displaystyle \vert\vec{E}\vert = \frac{1}{4\pi\epsilon_0}\frac{q}{r^2}
$

となります。 この式は、ちゃんとクーロンの法則と同じものになっていますね。

ただこの方法では電場の大きさまでしか求まりません。あとは予想に従うだけ。 点電荷から放射状に出ている方向を$ \vec{e}_r$と書くことにしましょう。そし て例題の答えとして求める$ \vec{E}$というのは、

$\displaystyle \vec{E} = \frac{1}{4\pi\epsilon_0}\frac{q}{r^2}\vec{e}_r
$

となるわけです。

3.3 面積分を少し丁寧に

電場が同じになる面で電荷を囲めば、面積分が簡単に計算できる。だからそんな 面で電荷を囲んでガウスの法則を適用しよう---というのが、いま見てきたや り方です。

それではその面積分はどのように簡単になっているのか、ちょっとゆっくり見て みましょう。

先に$ \vec{E}$の大きさと方向を予想しています。大きさを$ \vert\vec{E}\vert$と書いて、 方向を$ \vec{e}$と書くことにしましょう。つまり、

$\displaystyle \vec{E}=\vert\vec{E}\vert\, \vec{e}
$

ですね。これを面積分の式に代入すると、

$\displaystyle \int_{\partial V}\vec{E}\cdot d\vec{S}
= \int_{\partial V}\vert\vec{E}\vert\, \vec{e}\cdot d\vec{S}
$

です。さらに$ d\vec{S}$というのがなんだったかというと、これは面要素ベクト ル。ベクトルなので大きさと方向を持っています。

$\displaystyle d\vec{S}
= \left\{
\begin{array}{@{}ccl}
\text{大きさ} &:& \text{...
...方向}  &:& \text{積分しようとしている微小面の法線方向} \\
\end{array}\right.
$

です。これはこういう約束事なので、そういうもんだと思ってください。

積分しようとしている微小な面の法線方向を $ \vec{n}$と書くことにしましょう。この$ \vec{n}$は、積分していく最中、それ ぞれの位置ごとに違った方向になるということには注意してください。 とにかくこの式も代入します。つまり $ d\vec{S}=\vec{n}\,dS$なので、

$\displaystyle \int_{\partial V}\vec{E}\cdot d\vec{S}
$ $\displaystyle = \int_{\partial V}\vert\vec{E}\vert\, \vec{e}\cdot d\vec{S}$    
  $\displaystyle = \int_{\partial V}\vert\vec{E}\vert\, \vec{e}\cdot\vec{n}\,dS$    

です。積分する面 $ \partial V$の上では、$ \vert\vec{E}\vert$が一定であるように面を 選びました。なので、積分の外に出しましょう。

$\displaystyle \int_{\partial V}\vec{E}\cdot d\vec{S}
$ $\displaystyle = \int_{\partial V}\vert\vec{E}\vert\, \vec{e}\cdot d\vec{S}$    
  $\displaystyle = \int_{\partial V}\vert\vec{E}\vert\, (\vec{e}\cdot\vec{n})\, dS$    
  $\displaystyle = \vert\vec{E}\vert \int_{\partial V}(\vec{e}\cdot\vec{n})\, dS$    

つまり、今回の面積分で大事になるのは $ \int_{\partial V}
(\vec{e}\cdot\vec{n}) dS$という部分ですね。特に被積分関数である $ (\vec{e}\cdot\vec{n})$という部分が大事。

この内積が$ 1$になるような場合を考えてみます。つまり、電場ベクトルの方向 と積分する面の法線方向が「同じ向き」である場合です。 すると計算式は

$\displaystyle \int_{\text{積分したい面}}1\, dS
$

ですが、この答えというのは

$\displaystyle \int_{\text{積分したい面}}1\, dS=\text{積分したい面の面積}
$

になります3.5。 これは積分がそういう性質を持つものだということで納得してくだ さい。つまり内積が1になるとき---電場ベクトルの方向と積分しようとしてい る面の法線方向が同じであるとき---は、面積分がとても簡単になりますね。

だからガウスの法則を適用する面を考えるときは、 電場ベクトルの(予想した)方向と積分しようとしている面の法線方向は同じにな るように、面を作りましょう。

しかし実はこれだけで電荷を囲もうとしても、まだ不十分なときがあります。

上で書いた式

$\displaystyle \int_{\partial V}\vec{E}\cdot d\vec{S}
$ $\displaystyle = \int_{\partial V}\vert\vec{E}\vert\, \vec{e}\cdot d\vec{S}$    
  $\displaystyle = \int_{\partial V}\vert\vec{E}\vert\, (\vec{e}\cdot\vec{n})dS$    
  $\displaystyle = \vert\vec{E}\vert \int_{\partial V}(\vec{e}\cdot\vec{n}) dS$    

ですが、 $ \vec{e}\cdot\vec{n}=1$のとき以外でも、簡単に積分できる場合があ ります。

それはどんなときかというと、

$\displaystyle \vec{e}\cdot\vec{n} =0
$

となるときです。 こんなときは、積分される関数が常に0ということ。0はいくつ足しても0のまま なので、このとき積分の結果は0になります。 こんなときも積分の計算はしやすいですよね。内積が0になる---つまり、電場 ベクトルの方向と積分したい面の法線方向が直交する---ときも計算しやすい のです。まとめると、

$\displaystyle \int_{\text{面}} (\vec{e}\cdot\vec{n})\, dS
=
\left\{
\begin{arra...
...dot\vec{n}=1$)}
\\
0 &&\text{($\vec{e}\cdot\vec{n}=0$)}
\end{array}\right.
$

となります3.6。 もちろん内積が0や1以外の値をとることだってあるでしょう。積分しようとする 面によってはそんなことも起こります。 だけど、ガウスの法則を適用するときにそんな計算しにくい面は「はじめから考 えない」ことにしましょう。

つまりガウスの法則を適用するための面(面積分をやりやすい面)を考えるときは、 予想した電場ベクトルの方向を踏まえて「その電場ベクトルの方向と法線方向が 同じ方向になるような面」と「電場ベクトルの方向と法線方向が直交するような 面」のふたつを組み合わせて、電荷を囲んでください。

それがガウスの法則を利用して電場を求めるコツです3.7

3.4 *問題練習

それでは問題を解いてみてください。ガウスの法則を利用できるパターンという のは、だいたいこんなもんです。

問題13 (Gaussの法則と電位 / 無限に長く分布した電荷)

無限に長い棒状に電荷が分布している。電荷の分布している向きを$ z$軸方向と して、電荷の分布密度を$ \rho$としたとき、

(1) $ z$軸からの距離を$ r$として、この電荷によって作られる電場$ \vec{E}$を求めよ。

(2) $ z$軸から$ r_1$だけ離れた点と$ r_2$だけ離れた点の電位差を求めよ。

**

$ r_1$$ r_2$の位置での電位差は

$\displaystyle \Delta\phi =-\int_{\infty}^{r_1}\vec{E}(r)\cdot d\vec{r}
-\Bigl( -\int_{\infty}^{r_2}\vec{E}(r)\cdot d\vec{r}
\Bigr)
$

と計算するのですが、$ r_2$を基準にした$ r_1$の電位として

$\displaystyle \Delta\phi =-\int_{r_2}^{r_1}\vec{E}(r)\cdot d\vec{r}
$

と覚えておくと、楽ができます。これは積分範囲を合成しているだけですね。
 

* * *

問題14 (Gaussの法則 / 無限に広がった平面状電荷)

無限に広い平面上に、一様に電荷が分布している。 その電荷密度を$ \rho$として、その平面から垂直に$ z$だけ離れた点につくら れる電場$ \vec{E}$をGaussの法則を用いて求めよ。

\includegraphics{fig2-2.eps}

**

この問題と問題13は、クーロンの法則を使っても求めたことがある はずです。しかしガウスの法則を使って求めた方が、計算はずっと楽だと思え るはずです。
 

* * *

問題15 (Gaussの法則と電位 / 金属球に分布した電荷)

真空中に半径$ a$の金属球(導体)がある。その金属球には$ +Q$の電荷が蓄えられている。

(1) 導体の内部には電場は存在しない3.8。そのため、電荷は金属球の 表面に一様に分布することになる。金属球の表面での電荷分布密度を求めよ。

(2) 球の中心から$ r$だけ離れた点での電場$ \vec{E}$と電位$ \phi$を求めよ。ただ し$ r=a$での電場は特に考察しなくてよい。

(3) (2)で求めた電場の大きさ$ \vert\vec{E}\vert$と電位$ \phi$を、横軸に$ r$をとってグ ラフに描け。

**

電位を求めるには、とにかく

$\displaystyle \phi(r)=-\int_{\infty}^{r}\vec{E}(r)\cdot d\vec{r}
$

と計算するだけです。つまり電位を求めるには、先に電場をしっかり求めておか ないといけないということです。

また、$ r$の範囲に応じて電場 $ \vec{E}(r)$の形が異なるときは要注意です。そ のときは積分範囲を分解して、それぞれの範囲について $ \vec{E}(r)$を積分する ようにしましょう。

この問題では、導体の中か外かによって電場の形は違ってきますので注意してく ださい。

 

* * *

3.5 *問題練習2

ガウスの法則を使う基本的な問題に慣れたら、ぜひ微分形のガウスの法則と積分 形のガウスの法則の間を自由に行き来できるようになってください。必要なのは ガウスの定理だけです。

問題16 (Gaussの法則)

次の等式を「ガウスの定理」と呼ぶ。$ \vec{F}$を任意のベクトルとして、

$\displaystyle \int_{V}\ensuremath{\mbox{div}}\vec{F} dv=\int_{\partial V}\vec{F}\cdot d\vec{S}
$

ここで、左辺は任意の立体$ V$内での体積積分を表し、右辺はその立体の表面 $ \partial V$上での面積分を表す。

このとき、

(1) 電場に関するガウスの法則の微分形: $ \ensuremath{\mbox{div}}\vec{E}=\rho/\epsilon_{0} $ から、積分形: $ \int_{\partial V}\vec{E}\cdot d\vec{S}=\frac{1}{\epsilon_{0}}\int_{V}\rho dv $ を導け。

(2) 電場に関するガウスの法則の積分形: $ \int_{\partial V}\vec{E}\cdot d\vec{S}=\frac{1}{\epsilon_{0}}\int_{V}\rho dv $ から、微分形: $ \ensuremath{\mbox{div}}\vec{E}=\rho/\epsilon_{0} $ を導け。



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執筆者:山本明 ([物理屋さん]山本屋本舗 提供の記事) 投げ銭受け付け中!