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この記事の元 : 2005年度講義での配布資料

質点の力学(物理学IA)の総復習
山本明
2005.11.2

11月2日の物理学IBでは、前期の内容の総復習を行いました。その際に配布した資料のHTML版を以下に公開します。 印刷される方はPDF版をご利用ください。


1 運動方程式

物理は「ものの動きを予測する」のが目的。 そのために、物体の位置時間質量、そしてという概念を導入して、それらを数値で表し、その間に成り立つ関係式を仮定する。 その関係式とは、Newtonの運動方程式:

$\displaystyle m\frac{d^2 \vec{r}}{dt^2}=\vec{F}
$

である。 これが全ての出発地点。 この式は実験的にも、充分に正しいと信頼してよい。

あとは状況にうまくあわせて、そのとき働いている力を見抜き、上記の式の$ \vec{F}$のところに代入すれば、運動を求めるための微分方程式ができあがる。

2 微分方程式の解法

手で解ける微分方程式はいろいろなパターンがある。そのなかで特に重要なものを3つ挙げておく。

2.1 変数分離法

$\displaystyle \frac{dx}{dt}=f(x)g(t)
$

という形に変形できるもの。この形は左辺に$ x$だけの式を集め、右辺に$ t$だけの式を集めることで、両辺を積分することができる。

なお運動方程式は2階の微分方程式なので、それを解く場合は $ \displaystyle v=\frac{dx}{dt}$ といった変数$ v$を導入してみると、うまくいく場合が多い。考えている微分方程式を変数$ v$で書き直してみよう(そのとき変数$ x$という文字はもう式に残らないようにする)。ちなみに、運動方程式に$ x$の項があって、変数$ v$だけで書き表せない!という場合は、別の解法を試みるとよい。(特に次の節のものが適用できないかを疑ってみること)

変数$ v$について一般解を求められたら、 $ \displaystyle\frac{dx}{dt}=[v$の一般解$ ]$という新しい微分方程式を立てて、それを解く。

2.2 線形2階常微分方程式

$\displaystyle a\frac{d^2x}{dt^2}+b\frac{dx}{dt}+cx=0
$

という形の解法も重要。$ a,b,c$は定数とする。

この方程式を眺めてみると-- $ x$$ t$で微分しても、ほとんど形を変えないような関数みたいだなぁ…それだとこの方程式を成立させることができそうだなぁ…と考える。 そこで、$ x$の形として、だいたい

$\displaystyle x\propto e^{\omega t}
$

といったものが良さそうだと予想する。比例関係では代入しにくいので

$\displaystyle x=Ae^{\omega t}
$

として、元の方程式に代入してみる。$ A$は比例定数だけど、場合によってはあとで条件がつくかもしれない…程度には考えておく(実際には条件はつかない)。$ \omega$は方程式が成り立つように(辻褄が合うように)あとから条件付けをする。

実際に代入してみると、方程式を成り立たせるために

$\displaystyle a\omega^2+b\omega+c=0
$

という条件が出てくる。つまり、この2次方程式を成り立たせるような$ \omega$の値を用意すれば、 $ x=Ae^{\omega t} $が方程式の解になる。$ A$には特に条件が出ないので、これを不定定数とする。

2階の微分方程式の一般解には、不定定数が2つ必要(後述)。 しかし、 ここで上記の条件式(2次方程式)を満たす$ \omega$の値も2つあるはずだから、それを $ \omega_1\, , \; \omega_2$とすると、

$\displaystyle x=Ae^{\omega_1t}+Be^{\omega_2t}
$

という形で不定定数が2つ、つまり一般解になる(後に続く節一般解と特殊解も参照のこと)。

もしも$ \omega$の条件式が重解を持っている場合は、 $ x=Ae^{\omega_*t}$に対して、次の定数変化法を用いればよい。結果としては、 $ x=Ae^{\omega_*t}+Bte^{\omega_*t}$が一般解となる。

2.3 定数変化法

ちょっと複雑になった微分方程式を解くためには、この定数変化法を覚えておくと、応用範囲が広くなる。

これは考えている微分方程式を成り立たせそうな“およそ”の解の形を求めて、不定定数と考えていた部分を$ t$に依存すると考え直して元の微分方程式に代入、辻褄が合うような条件を求める…という手法。

例えば、

$\displaystyle \frac{dx}{dt}=f(x)g(t)+h(t)
$

といった形だと、$ h(t)$が邪魔で、変数分離法は使えない。 こういうときに、試しに$ h(t)$がない場合の微分方程式 $ \displaystyle\frac{dx}{dt}=f(x)g(t)$を解いて、その一般解の不定定数の部分を$ t$に依存する関数だと考え直して、上記の式に代入する。

もっと具体的な例を出すと、

$\displaystyle \frac{dx}{dt}=2xt-2t
$

という方程式。これを解いてみよう。 まずは右辺の$ -2t$がない方程式 $ \displaystyle \frac{dx}{dt}=2xt$を解く。すると、 $ x=Ae^{t^2}$となる。ここの$ A$は不定定数。

この$ A$が実は定数でなく関数だった(``定数変化''法!)と考え直して、 $ x=A(t)e^{t^2}$を微分方程式に代入してみる。すると左辺は、

$\displaystyle \frac{dx}{dt}$ $\displaystyle =A(t)\cdot 2te^{t^2}+\frac{dA(t)}{dt}\,e^{t^2}$    
  $\displaystyle =2tx+\frac{dA(t)}{dt}\,e^{t^2}$    

なので、辻褄を合わせるためには、

$\displaystyle \frac{dA(t)}{dt}=-2te^{-t^2}
$

ならば良いことになる。これを解けば$ A(t)$に対して、

$\displaystyle A(t)=e^{-t^2}+C
$

という一般解が得られる。ここの$ C$が最終的な不定定数。 元の微分方程式の一般解は、

$\displaystyle x =$ $\displaystyle (e^{-t^2}+C)e^{t^2}$    
$\displaystyle =$ $\displaystyle 1+Ce^{t^2}$    

と求められる。(これの $ \frac{dx}{dt}$を計算して、ちゃんとそれが$ 2xt-2t$になるか確認してみよう)

2.4 一般解と特殊解

$ n$階の微分方程式を解くというのは、方程式の両辺を$ n$回、不定積分するようなものである。 そのため$ n$階の微分方程式を解くと、$ n$個の不定定数が現れる。 不定定数が$ n$個含まれている解(方程式を成り立たせる関数)を、一般解と呼ぶ1

なにか条件を課して、一般解から不定定数の値を決めていき、すべての不定定数の値が決った解を、「特殊解」と呼ぶ。 物理学では、初期条件や境界条件などを考えて、最終的には特殊解を求める

2.5 例題1

次の微分方程式の一般解を求めよ。

(1)   $ \displaystyle
\frac{d\omega}{dt}=0 \qquad\omega$$ t$の関数。

(2)   $ \displaystyle
\frac{d^2x}{dt^2}=-g \qquad x$$ t$の関数。$ g$は定数。

(3)   $ \displaystyle
\frac{d^2x}{dt^2}=-b\frac{dx}{dt}-g
\qquad x$$ t$の関数。$ b,g$は定数。

(4)   $ \displaystyle
\frac{d^2x}{dt^2}=-\frac{k}{m}\,x
\qquad x$$ t$の関数。$ k,m$は定数。

(5)   $ \displaystyle
\frac{d^2\theta}{dt^2}=-\frac{g}{\ell}\,\theta
\qquad\theta$$ t$の関数。$ g,\ell$は定数。

3 エネルギー保存の法則

導出はNewton方程式の両辺に $ \displaystyle\frac{d\vec{r}}{dt}$を掛け算して、両辺を時間積分すれば良い。

力と $ \displaystyle
\vec{F}=-\mathrm{grad}U
$ という関係があるポテンシャルエネルギー$ U$を用いて、

$\displaystyle E=\frac{1}{2}m\bigl(\frac{d\vec{r}}{dt}\bigr)^2+U
$

という値を力学的エネルギーと呼び、この値はいつ(どのタイミングで)測定したとしても値は変化しない…という性質を持つ2。 これはNewton方程式からの帰結である。

運動の特徴的な状態(エネルギーを求めやすい状況)を抜き出して、エネルギーが変化しないという条件式を作ると、便利な場合もある。

3.1 例題2

振り子の運動を考えてみる。 振り子の糸の長さを$ \ell$、質量を$ m$とする。 最下点から角度を測ることにして、振らせはじめの角度を $ \theta_{\text{max}}$とする。またポテンシャルエネルギーの基準も、振り子の最下点とする。

(1) 振らせはじめの時点での全エネルギーを求めよ。

(2) 任意の角度$ \theta$のときの全エネルギーを求めよ。ただしそのときの振り子の速度を$ v$とする。

(3) 振り子の速度$ v$$ \theta$の時間微分を用いて表現せよ。

(4) (1)(2)(3)で求めた内容から、$ \theta$に対する微分方程式を立てよ。

(5) (4)で求めた微分方程式を使って、この振り子の周期を求めよ。

(復習といいつつ、この話題は前期にやってません。積分はすごく難しい!!)

A. 例題の解答

A..1 例題1

答えのみ。

(1) $ \displaystyle
\omega=A \qquad A$は不定定数。

(2) $ \displaystyle
x=-\frac{1}{2}gt^2+At+B
\qquad A,B$は不定定数。

(3) $ \displaystyle
x=Ae^{-bt}-\frac{g}{b}t+B
\qquad A,B$は不定定数。 求め方によっては$ A$でなく $ -\frac{A'}{b^2}$といった形になるかもしれない。けど $ A=-\frac{A'}{b^2}$だと考えれば同じ形 !

(4) $ \displaystyle
x=Ae^{i\sqrt{\frac{k}{m}}\,t}+Be^{-i\sqrt{\frac{k}{m}}\,t}
\qquad A,B$は不定定数。

(5) $ \displaystyle
\theta=Ae^{i\sqrt{\frac{g}{\ell}}\,t}+Be^{-i\sqrt{\frac{g}{\ell}}\,t}
\qquad A,B$は不定定数。

A..2 例題2

(1) 重力は保存力。ポテンシャルエネルギーは基準点から$ h$だけ高いところで$ mgh$という値になる。よって、 $ \displaystyle
E=mg\ell(1-\cos\theta_{\text{max}})
$

(2) $ \displaystyle
E=\frac{1}{2}mv^2+mg\ell(1-\cos\theta)
$

(3) $ \displaystyle
v=\ell\frac{d\theta}{dt}
$

(4) $ \displaystyle
\Bigl(\frac{d\theta}{dt}\Bigr)^2
=\frac{2g}{\ell}(\cos\theta-\cos\theta_{\text{max}})
$

(5) $ \displaystyle
\frac{d\theta}{dt}
=\sqrt{\frac{2g}{\ell}(\cos\theta-\cos\theta_{\text{max}})}
$から、 $ \displaystyle
\frac{dt}{d\theta}
=\sqrt{\frac{\ell}{2g}\frac{1}{(\cos\theta-\cos\theta_{\text{max}})}}
$ と変形して、両辺を積分してみよう。積分は振り子の最下点から最高点までとする。つまりそれは全周期$ T$ $ \frac{1}{4}$

$\displaystyle \int_0^{\frac{1}{4}T}dt=
\int_0^{\theta_{\text{max}}}
\sqrt{\frac{\ell}{2g}\frac{1}{(\cos\theta-\cos\theta_{\text{max}})}}\,d\theta
$

$\displaystyle \Longrightarrow\qquad
T=4
\int_0^{\theta_{\text{max}}}
\sqrt{\frac{\ell}{2g}\frac{1}{(\cos\theta-\cos\theta_{\text{max}})}}\,d\theta
$

ここまでできたら上出来。この積分は $ \displaystyle \sin\bigl(\frac{\theta}{2}\bigr)=\sin\bigl(\frac{\theta_{\text{max}}}{2}\bigr)\sin\phi$となる$ \phi$へ変数変換すると計算できる。(この積分を調べるなら「楕円積分」がキーワード。物理のかぎしっぽ「楕円積分 〜 振り子の周期を求める」をお勧め)
計算結果は、 $ \displaystyle
T=2\pi\sqrt{\frac{\ell}{g}}
\Bigl\{ \sum_{n=0}^{\infty}\bigl[\frac{(2n-1)!!}{(2n)!!}\bigr]^2\,\sin^{2n}\frac{\theta_{\text{max}}}{2}
\Bigr\}
$ となる。

B. あと復習としてやるべきことは…

どんなときに、どんな力が働くのかを知っておこう。

  • 地表付近では鉛直下方向に重力がかかる。質量$ m$の物体には重力加速度$ g$という定数を用いて、重力の大きさは$ mg$
  • 接している物体同士は、必ず力を及ぼし合う(``垂直抗力'')。
  • 接している物体同士の力は、お互いに同じ大きさであり、向きが逆向きになる(``作用反作用の法則'')。

といったことは覚えておく必要がある。

技術的なことだが、位置$ \vec{r}$をベクトルで(数式で)表すことにも慣れておこう。同じ基底ベクトルを用いて、$ \vec{F}$を表すようにする。

あとは問題に応じて考える。

といった状況は、手計算で解きやすい。 復習するならば、 などを考えてみるとよいだろう(各自で問題設定をおいて、自分で解いてみよ!)。ちなみに最後の「バネと連結している質点の動き」に空気抵抗まで考えに入れると、面白い(=つまり、ちょっと大変)。

C. 後期(物理学IB)でやることで関連するのは…

後期は質点がたくさん集まった状態(``質点系'')の説明を行う。(その特殊な場合として、「剛体」に特化した話をする)

といったことは、剛体に限らず、質点の動きを考える上で大事になる内容なので、注意しておいてください。


この文書について...

質点の力学(物理学IA)の総復習

この文書はLaTeX2HTML 翻訳プログラム Version 2002-2-1 (1.70)

Copyright © 1993, 1994, 1995, 1996, Nikos Drakos, Computer Based Learning Unit, University of Leeds,
Copyright © 1997, 1998, 1999, Ross Moore, Mathematics Department, Macquarie University, Sydney.

日本語化したもの( 2002-2-1 (1.70) JA patch-1.9 版)

Copyright © 1998, 1999, Kenshi Muto, Debian Project.
Copyright © 2001, 2002, 2003, 2004 Shige TAKENO, Niigata Inst.Tech.

を用いて生成されました。

コマンド行は以下の通りでした。:
latex2html index.

翻訳は 山本明 によって 平成17年12月17日 に実行されました。


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